αの知る世界
研究室の空気は常に一定温度に保たれ、湿度変化もほとんどない。
隔絶された室内は、外界の気温変化を寄せ付けず、快適な室内環境を呈している。
室内には、色彩のほとんどない男が実験台に向かっており、極彩色の液体が詰まった試験管がところ狭しと並べられている。
試験管をなぞる手はどこか奇妙であった。
まるで鏡写しにでもしたような手の持ち主は、先程まで眺めていた試験管を放置し、なにやら電話をかけ始める。
男は奇形であった、だがしかし、素早く数字を打ち込んだ手腕は慣れを感じさせるものだった。
「もしもしぃ……先日お聞きしました件、大丈夫ですかねぇ……」
間延びした声で尋ねる。
相手の返答は特に望んでいないような口調であり、発言にも不親切さが目立つ。
電話の相手の声は小さく、聞き取れるか聞き取れない程度の音量に耳をすませる。
他愛のない電話ではなく、今回は重要な案件なのだ。
「はい……そうですよぉ……ふふ、お待ちしておりますぅ……えへ」
公的な場での口調とは思えないが、無理に吃り症を完治させた彼にとってはこの喋り方以外は逆に不自然に感じられてしまう。
がちゃんと大袈裟な音をたてて電話が切れた。
白衣のポケットに乱雑に懐中電話をねじ込み、一息つく。
灰色の回転椅子に適当に腰掛け、男は書類に向かう。
「……これが揃えば結構な躍進が望めますよぉ」
くすくすと笑い声をあげる彼の顔は、笑っていたが、その表情は作られたような不自然なものだった。
男の名前ははいじま涅槃、NECTERの一研究員であり、西京駅の駅員である。

続く
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