カバー
古式は外に出ようかと画策した。
外の風景は記憶にある物とはそれなりに違い、新しい記憶を授けてくれるような気がしたからだ。
外に出る方法はよくわからないが、この場所に留まり続けた所でどうにかなるわけでもない。
自分は寝不足で頭が少しおかしいだけだと何度となく言い聞かせ、なるべく記憶との齟齬を見てみぬふりをする。
そういえば総理大臣だった兄はどうなったのだろうか。
やはり記憶には無いので、資料を探しに走る。
書庫の場所もよくわからないままに進んでいくと、涅槃の後ろ姿が見えた。
微かに声も聞こえるが、何を言っているのかはよくわからない。
隣に居るのは解良だろうか。
何度も聞いた話では、涅槃は解良が嫌いで嫌いで仕方がなく、間違ってもああいった風に親しげに話すような間柄ではない。
三年間の間に何があったのだろうか。
涅槃の性質的に敵意や悪意といったものは恒常的であり、今見かけたように、すっかり仲良しのようにはならないだろう。
やはり此処は何かおかしいのだろうか。
足を止めて見ていると、二人は別れた。
涅槃は何か大きな荷物を抱えており、先程の実験の副産物か何かだろうということが想像される。
「はいじま涅槃」
声をかけてみると、涅槃はめんどくさそうに此方を向いた。
「……用が無いなら話しかけないでくれませんかねぇ……愚生も忙しいのですよ」
そう言って行ってしまいそうな涅槃の袖を掴み、古式はもう一度話しかける。
「貴方髪切ったですか」
「……?愚生は1年前からずっとこの髪型ですよ……?やっぱり疲れてるんじゃないですかぁ」
何を言っても通用しそうにない。
それならばと古式は聞きたいことを聞いてみることにした。
「荒神雷蔵、今何してますか」
「突然ですねぇ、彼なら今やこの国の王です……出世したものですよねぇ」
国王、なんだかその言葉には違和感がある。
「神王、どうなったんですか」
「神王なら死んだじゃありませんか……どうして覚えてないんですかぁ?」
神王の死はやはり記憶にない。
自分は本当は三年間眠っていたのではないかというほどに世間のことがわからない。
「……外、何起きてるです?」
「我々荒神派に反発するバカ達の抗議ですよぉ……全くめんどくさい」
荒神はそんな風に反発される組織だったろうか。
確かに雷蔵の行動によって政敵は多かったが、荒神といえばただの天才の寄せ集め集団だ。
それがここまで反発されるのは一体。
「気が済みましたかぁ……?」
涅槃の声にはっとし、古式は口をつぐんだ。
今の状況はある程度わかったが、まだよくわからないことが数個ある。
どうにかして雷蔵に会うかどうかしないと本当のことはわからないのではないか。
「はいじま涅槃、荒神雷蔵今どこに居ますか」
「知りませんよ……そもそも貴方は質問する立場では無いでしょう……貴方は知っている事を答える立場ですよぉ……」
「情報不足してます。現時点それ不可能です」
古式は機械的に答えた。
涅槃は少し悩むようなそぶりを見せ、ちょっと遠慮ぎみに言う。
「……彼なら此処の最上階にでも居るんじゃないですかぁ……?偉そうに椅子にでも座ってるんじゃありませんかねぇ……知りませんけど」
「感謝します」
古式は階段を登ることにした。
エレベーターの類いもおそらくあるのだろうが、懐中電話の件もあるし、自分が文明の利器をまともに使える自信がない。
階段を登るのは苦手で、常人よりも時間がかかってしまう。
古式は息をついて休む事を繰り返しながら、上を見上げた。


続く
prev nextbkm
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -