ディスカバー
結局失敗に終わった実験の廃棄物を捨てに、涅槃は荷物を持って彷徨いていた。
ぐずぐずになってしまった実験の副産物は硫黄のような臭いを放ち、身体に良さそうな感じはしない。
なるべく蓋をしてはいるのだが、完全に塞ぎきれる訳ではない為、涅槃は嫌な臭いに顔をしかめた。
しかし、先に進まなくてはこの嫌な物を捨ててしまうことも出来ないので、仕方無く前に歩き出す。
前方に人影が見えることに気付き、涅槃は歩みを止めた。
此処に敵は居ないのだが、あまり仲の良くない人間もそこそこ居る。
涅槃は角に隠れ、こそこそと様子を伺った。
白い服と少し茶色が見えた気がした。
間違いなく、長年嫉妬心と尊敬の対象としてきた奴に違いない。
涅槃は彼を避けて廃棄物を捨てる道を探そうと考えたが、それよりも少し早く此方に到達されてしまった。
「オヤ、誰でしたっけ」
片言の口調で呟き、小さく首を傾げる。
自分よりも少し小さいその男は、少し前に荒神團十郎との結婚を果たし、荒神解良と名を改めた天才医師その人だ。
自分のことを相も変わらず認識していない反応に腹をたて、涅槃は歯をぐっと噛み締めた。
「……はいじま涅槃、と申します…………以前お話したと思うのですが」
嫌味ったらしく涅槃は以前も会ったという旨を強調する。
荷物は少し重たいが、気にせずに会話を続ける。
「そうでしたっけ?小生は患者の名前はよく覚えてるんデスガ」
涅槃は更に歯を強く噛み締める。
何度も此方はそちらを見てきたし、会ったことがあるはずだというのにこの男は全く自分を認識していない。
そのことが酷く涅槃の自尊心を傷付けた。
「以降宜しくお願いします……」
顔にひきつった笑顔を張り付け、涅槃は廃棄所の方へ歩いていく。
途中でちらりと解良の方向を振り返るが、ほとんど見なかったことにするように、前を向きなおして歩いていく。
「何だったんデショウあの人……」
全く身に覚えが無いことで嫌味を吐かれた解良は複雑な心境で此方を見たり進んだりする男を見ていた。
その男が曲がり角を曲がった時、解良は医者として働くことを思いだし、また廊下を歩いていくのだった。

続く
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