六道リンカーネーション
「あー」
今日も鏡のなかには全く知らない人間の顔がある。
昨日着たパジャマは女物だったが、今の姿では完全に女装だった。
ぼんやりと鏡を眺めながら髭を剃る。
この行為も家を出る頃には無駄になっているだろうと思いつつも、清潔感の無い無精髭を放置することは出来なかった。
特に女物でも男物でもない衣装を身に纏い、間借りしている部屋を後にする瞬間、少し咳をした。
その時、男の身長は縮み線の細い女性の姿に変化した。
この女とも男ともつかない人物、六道 渡は非常に不安定な人間であった。

定職につこうにも証明写真を撮っている間に姿が変わってしまい、奇妙な写真が印刷されてしまう。
喫茶店で食事をしている時も、店を出るときには全くの別人に変わっている。
最近は顔を覚えられることが無い利点を生かし薬の運び屋をして生計を稼いでいる。
自分では天職だと感じているが、やはり明るい仕事というのも体験してみたかった。
「椿の奴はまだかね」
老人の姿らしく、老人の言葉使いで独り言を呟く。
一瞬前までは快活な少女だったので変化のギャップの大きさで体が軋んでいる。
「お」
言われた通りの外見の女を見つけ、渡はぱたぱたと老人らしからぬ歩きをしようとした。
その瞬間、地面に向かって飛び込みまた姿が変わる。
今度は好青年といった顔付きの青年であり、その持ち前のはにかみ笑いを浮かべながら、握り締めていた鞄を差し出した。
「ありがとよ。また今度も頼むぜ」
ニイッと笑う受けとり手に申し訳無さそうな顔を向け、渡はため息をついた。
体に合わない動きをすれば転倒は免れられない。
頭ではわかっているが、こうも目まぐるしく体が変化するとあってはどうしようもなかった。
渡はため息を飲み込み、また新たな仕事を探すのだった。

おわり
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