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 第一印象は、決していいものではなかった。
 明るく茶色い、流行りらしくゆるく巻かれた髪。人工的に伸ばされた睫毛。CMで繰り返し見る、キスしたくなる唇という謳い文句を鵜呑みにしているようなピンク色に光った唇。こうする私は可愛いでしょうとでも言いたげに大きめのセーターを着て、指先まで隠す。
 クラスに数人はいるタイプの女は、オレが荒北さんに強くなる方法を聞きに教室まで行ったとき、ドアのすぐ近くにいた。遠巻きになんだと見つめてくる上級生に混じって目を丸くしていた彼女は、荒北さんが話を切り上げて教室に戻りかけたときに一歩踏み出した。遠近感がつかめないというように荒北さんの体に当たってよろけて、荒北さんに支えられる。それに礼を言ってから、言いたいことはわかるけどわざわざそんな言い方をしなくてもいいでしょうと文句を言った。
 その距離は近くて、すこし押せば思いのほか大きな胸が荒北さんに当たってしまいそうだった。
 ふたりに頭を下げて廊下を歩く。上級生のクラスが並んでいる廊下というものはどこか落ち着かなくて自分を異質なものだと拒否しているみたいで、さっきの荒北さんの言葉を反芻しながら足早に歩いた。
 プライドを捨てれた。強くなる方法は盗め。
 ぐるぐるとふたつの言葉が頭を支配して、やってやろうという気になって前を向く。本人からそう言われたんだ、思う存分盗んで、そう言ったことを後悔させてやる。

 階段の踊り場についたとき、大きな声がした。


「ユキちゃん!」


 オレだけじゃなく、近くにいた生徒も振り向く。そこには、短いスカートを揺らしながらオレをまっすぐ見ながら走ってくる人がいた。さっき荒北さんと一緒にいた人だ。やけに近いふたりの体を思い出す。
 荒北さんの彼女がなんの用だと立ち止まると、数秒して細い体がオレの前にたどり着いた。たったすこしの距離を走っただけなのに息が乱れている。
 膝に手を当てて息を整えている彼女は、意図せず上目遣いでオレを見た。目が大きくて色が白くて、なんだかどきりとした。


「これ」


 差し出された紙を受け取る。
 キャラクターが描かれたピンク色のメモ帳には、英単語の羅列のあとにアットマークが書かれたアドレスと電話番号と名前が書かれていた。意味がわからずに、ようやく息が整った彼女を見る。


「靖友はあんな性格であんな言い方をするから、イラっとしたり、年下だと反論したいのにできなかったりするんじゃないかと思って」
「それが何か」
「私ならいつでも愚痴聞くから。靖友は乱暴だけど、ユキちゃんに期待してるんじゃないかな。嫌ってなんかないと思うよ」


 走ってきてわざわざ彼氏のフォローをするとは、よくやる。
 ユキちゃんと呼ばれたことはあえて触れずに会釈だけした。関わる気なんてない。髪の毛みたいに頭の中までくるくるしてそうで、尻が軽そうで、これからこてんぱんにするやつの恋人だ。


「私、名前っていうの。靖友以外のことでも、なんでもいいから連絡してね」
「はい。それじゃあ」


 当たり障りのない返事をして、不快感を与えない程度に笑ってみせてその場を去った。あんな女子にありがちな甲高くて鳥みたいじゃない、やわらかで落ち着いた声が外見とミスマッチに思えて、いつまでも耳の奥に残っていた。


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