koi-koi?


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「寒咲先輩。わかってますね?」



 そりゃもうにこにことご機嫌な寒咲先輩と手嶋さん、鳴子さんを前にして腕を組む。先輩だからって人の恋路をかきまわしていい理由にはならない。
 今泉先輩に聞いたところ、寒咲先輩にいろいろ吹き込まれたりそそのかされたりしていたらしい。昨日の手嶋さんたちの行動の意味もようやくわかって、呆れるやら怒るやらありがたがっていいのやら、まったくわからなかった。



「いくら先輩とはいえ、人の恋を引っ掻き回していいわけじゃありません。今回はうまくいったからいいものの、失敗してたらどうするつもりだったんですか」
「今泉くんってけっこう単純だから大丈夫だと思うよ」
「そういうことじゃありません」
「見てるほうからしたら、すごく焦れったかったんだから! 名前ちゃんは今泉くんのこと好きなのにアタックしないし、今泉くんも名前ちゃんのこと好きになりかけてるのに気付いてないし! 今泉くんのことだから、好きになる前にロードに夢中になって恋にならないかもしれないんだよ?」



 寒咲先輩の熱弁でどれだけ焦れったかったか伝わってきたけど、手嶋さんと鳴子さんがニヤニヤして見てくるのがつらい。顔が赤くなってくるのをごまかすように怒っている顔を作った。



「それに関してはお礼を言うべきなのかもしれませんが、せめて私に話してからそういうことをしてください。これから一週間、寒咲先輩のロード語りはいっさい聞きません」
「そんな! お兄ちゃんにも聞いてもらえないのに!」
「聞きません」



 ふいっと顔を背けて、怒っていることをアピールする。一週間と言ったけど3日くらいで話を聞くつもりだし、寒咲先輩の強引さもこれで少しはなおるといいんだけど。
 騒ぐ寒咲先輩を今泉先輩になんとかしてもらおうかと思い始めたころ、手嶋さんがおかしそうに笑った。目はやわらかく細められている。



「それにしても、昨日はうまくいきすぎて驚いたよ。ここにいる三人と青八木で計画を練ったんだが……予想外なことはすこしあったが、結果オーライってやつだ」
「せやで! 嫉妬してるスカシもおもろかったわ」
「今泉先輩は嫉妬なんかしませんよ」
「え」



 鳴子さんが驚いたように停止して、いやいやいやと首を振る。手嶋さんは苦笑、寒咲先輩はやっぱりという顔をしている。そんな顔されても、間違ったことは言っていないはずだ。
 鳴子さんがまだ首を振りながら、肩にぽんと手を乗せてきた。



「よう考えてみい、鏑木んときも昨日も、」
「さわるな」



 話している途中だった鳴子さんの手が、今泉先輩によって払われる。突然のことに驚いているあいだに、鳴子さんは手の甲をさすり「ほらな」と笑っていった。



「えと……あの、大丈夫ですか?」



 とりあえず鳴子さんの手を見ようと手を伸ばすと、私を背に庇うようにして今泉先輩が前に立った。鳴子さんの姿が半分隠れて、前に進もうとしても進めない。



「先輩、鳴子さんの手の様子を見たいんですが」
「見なくていい」
「赤くなってるかもしれないです」
「そんなヤワじゃない」
「でも」



 よくわからないけど私が原因かもしれないのに、傷ついた選手の体を放置することはできない。
 どうやってもどかない先輩に困り果てていると、横から寒咲先輩がすすっと近寄ってきた。笑顔だ。



「今泉くん、嫉妬してるんだよ。鳴子くんが名前ちゃんにさわったから」
「……は」



 まさか、そんなことあるはずない。そう思って今泉先輩を見るとほんのり頬が赤くて、私にまで赤さが感染していく。



「名前ちゃんも今泉くんも、変なところが鈍いよね」



 そんなことはないと否定したかったのに言っても流されそうで、大人しく口を閉じる。せめて先輩が「嫉妬なんかしてない」と言ってくれればやっぱりそうだって思えるのに先輩はなにも言わないから、すこしずつ自惚れていってしまう自分がいて、これ以上先輩を好きになったら困るのにと赤い顔で思った。



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