茜色の誓い2
 
 
そのあと、カフェに入って軽い軽食をとり、巨大迷路、お化け屋敷、わけの分からないキャラクターのパレードなど、二人は十二分に遊園地を堪能した。
そして陽もだいぶ西に傾いた頃に遊園地のシメの定番、観覧車に乗り込んだ。茜色と紺色が入り交じった空のグラデーションに、疎らに光り始めたネオンはなんともロマンチックな雰囲気を醸し出している。
 
「わっ!めちゃくちゃキレイ!」
「あ、あの辺りがシンジュクかな?」
「空もネオンもキレイだな!」
 
まだ闇夜でもないのに市街はキラキラと輝き、タマキは身を乗り出して窓に映る景色にはしゃぐ。一方、さきほどまでとは打って変わって落ち着きを払ったカナエが、そんなタマキの様子を見てふっと柔らかく笑んだ。
あどけないその姿や笑顔が彼にはたまらなく可愛らしく、愛らしく、愛おしく映えて、ネオンよりも眩しいくらいで。半ば無理矢理ではあったが、一緒に来られてよかったな、とカナエは感慨深くそう思った。そう、タマキと一緒にこんなに楽しい時間を過ごせたのだから。
 
「俺ね、遊園地って来たの、初めてなんだ」
「え…」
「前にも言ったけど、俺はスラム育ちだったから、こんなに楽しい場所があることさえ知らなかったんだよ」
「…カナエ」
「だからこそ、タマキ君と来たかったんだ」
 
もうすぐ二人が乗ったゴンドラが、頂上が目前に迫るなか、カナエはぽつりぽつりとここへ来た理由を語り始めた。苦笑混じりに少し寂しげな表情を浮かべながら話す彼を見て、タマキの心臓がぎゅっとなにかに締め付けられる。
気が付いたらタマキはカナエの胸に飛び込んで、そっと口付けを交わしていた。タマキの癖のある漆黒の髪の毛からの匂いが鼻腔を擽(くすぐ)り、同色の瞳は閉じられ、代わりに長い睫毛は伏せられている。
 
「…なぁカナエ、知ってるか?」
「たっ、タマキ君っ…!」
 
動揺するカナエに構わず、タマキはそのままカナエの胸に顔を埋めて話し出す。その口振りはゆっくりとしていて非常に穏やかで鼓膜に心地よい。徐々に落ち着きを取り戻し始めたカナエは、なぜか口を挟んではいけないような気がして、黙ってタマキの言葉に耳を傾ける。
自分の胸に顔を埋めているため、彼の言葉はぼそぼそと紡がれるが、二人きりの空間のお陰で静寂が保たれていた。
 
「観覧車のてっぺんで、キ、キス…すると、その二人は永遠に結ばれるんだって」
 
カナエは面食らって一瞬だけ呆気にとられる。しかしすぐにその顔は綻び、余程照れているのだろう、真っ赤になっているタマキの耳に口付けを落とした。
その行為にたまげたタマキは目を少し見開いてカナエを見上げる。そして今度は同じく真っ赤な頬に口付けが落とされた。
 
「ふふ、タマキ君、耳までリンゴみたいで美味しそう」
「ばっ…、ムード壊すなよ…!」
「ごめんね。でもタマキ君がかわいいからつい、ね」
「っ…!」
 
夕日のせいだ、とそっぽを向いて呟いたタマキは完全に拗ねている。そんな彼がまた愛おしくて、カナエはぎゅうっと抱き締めた。窮屈そうに藻掻くタマキにまたごめん、と一言だけ謝りそっと耳打ちをするとタマキは苦しさも忘れて温和しくなった。
ゴンドラが終着点に到達し、二人は遊園地をあとにする。
すっかり暗くなった帰り道、二人の手はしっかりと結ばれ、どちらともなく互いの熱を交換し合った。
 
「これで永遠に離れられなくなったね」
「…絶対放してやるもんかっ」
「臨むところだよ」
「…もう、離れんなよ」
 
繋がれたタマキの右手に力が籠もる。まるでもう逃がさないとでもいうように。
 
 
(誓うよ、この夕日に)
(もう二度と君を離さない)
(もう、絶対逃げたりしないから)

 
 
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