薄情者たちへ哀悼を///
「黄喰が… 死んだ?」
馬鹿な。
ぽつと声が漏らされる。驚愕、といった表情を浮かべているミントにはい、と坂野目が頷いた。
「し、死因は?」
自殺です、と坂野目が相変わらず抑揚のない声で答えた。手元に資料があるわけではないが、まるで紙っぺらでもめくって読み上げているかのような単調な受け答えだ。
「…じさつ、」
ミントが繰り返す。容量の掴めないような様子だったが、数秒もしないではっと顔を上げた。
彼や自分がふと思い当たるのはここ最近の悪夢の話。あっちでもこっちでも、その話でもちきりだった。何かとこの町にはそういう噂はひっきりなしに訪れる。
正露にいると悪夢にまとわりつかれやすいとでも言うのだろうか?
まぁ、あながち間違ってもいないか、と坂野目は心の中で納得する。
「まさか」
おそらく、そうだろう。目線だけで自殺の原因にそれなりに区切りをつける。
「たしか、死亡した黄喰と彼は…ベリアーは双子、でしたか?兄弟だとも聞きますが、まぁどちらでも変わらないことですね…気をつけたほうがいいですよ」
双子というのは、呼び合いますから。
坂野目がぽつとそう言った。ああ、とどこか上の空の返事が返される。ちらと坂野目がミントを見ると、やはり何か悩んでいるようで眉間にしわを寄せていた。
まぁ、気をつけたところでもう手遅れなんでしょうけれど。
などと言いそうになっても、それをいうことはない。言ったところで、聞こえてもいないだろうが。腕時計を見ればもうすぐ次の仕事の時間になる。それじゃあ、と坂野目がミントに別れを告げて背を向けた。直に、そこにいても仕方がないとミントもそこを去った。
それにしたってこの人も随分と薄情な人間だ、と坂野目は思う。
きっとこれから先もこの男が泣くことはないのだろう。誰が死んだって、きっと。それはもう、自分と同じように。上辺を装っているだけだ。本心では、誰が死のうと悲しくはないのだ。
それとも、と坂野目はさらに考える。
自分と同じならばこそ。彼もまた、やることが多すぎて嘆く余裕もないのだろうか、と。
どちらにせよ。
エレベーターが到着するのを待ちながら、ひとりきりになった廊下を坂野目は振り返る。人気のない廊下を日差しが寂しげに照らしているだけだ。
「どちらにしたって、薄情者しかいないんですけどね」
ぼくも、あなたも。街にいるあの人もこの人も。きっと本当は。
だからこの街が好きで嫌いだと思いながら、坂野目は対して記憶にもないが死んでいった無数の誰かに「願わくば、解放されますように」と口先だけの祈りを捧げる。
短い音を立ててエレベーターが目の前で開く。扉が再び開く頃には、もう祈りのことさえ忘れるだろう。
それからそうしないうちに一つの訃報を聞くことになる。いや、正確には行方不明だったか、入院だったか? どれにしたって、なんにしたって、ろくな知らせではなかったことには違いない。
ああ、ほらね。
坂野目が呆れたようにいうのを聞いていたのは足元の猫一匹だけ。
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しょっくだったしびっくりしたし欝だった
mae/◎/tugi