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この時間ならいつものように教会にいるに違いない。

動くたびにぱらぱらと部品がこぼれ落ちる。代替えを手に入れて組み直すにしても…これは時間がかかりそうだ。黒田にもみっつんにも通れない特殊な電子回廊をいつもよりゆったりと伝う。びきりと右腕が軋みを上げた。痛覚回路はすでにシャットダウンさせてるため、どうということはないが。

「神父さぁーま」
「……また貴方ですか」

 中から教会を伺えば案の定そこにいた。仕込んでおいたスピーカー越しに声をかければ、姿が見えない私を探してか彼が周囲を見渡した。
 黒田は私よりもおもちゃは丁寧に扱う性格だから基本的に壊した部分は治す。…治さずにそのままということもあるようだが、もし人のものにまで手を出しておいて放置でもしようものなら、それこそあの男を消してやろうかと考えていた。(もっともその前に返り討ちになってこのザマなわけだが)
 外傷がいくら治ったところで、あの男の望みはすでに達成されている。紳士的などと言われていてもあの男は…弄んで弄んで苦しめて、そう、心を傷つけるの、とかいうことが好きなのだ。

「…一体どこに隠れているんですか」
「ひみつー」

 うっかりしていた。ついつい、いつもの調子で神父さまの死角になる場所へと体を構成してしまった。姿を表してはみてから、黒田にその殆どを壊されたことを思い返した。もう一度姿を消そうと身じろいだ瞬間、かつんと足元に歯車が落ちた。その音に神父さまがそれはそれは素早く振り返った。早すぎワロタ。
 こちらの姿を理解したようで、神父さまが珍しくびっくりしたと言わんばかりの表情をとった。どちらかといえばあまり感情を見せてくれない彼がそうやってわかりやすくリアクションをとってくれることは少々喜ばしい。…が、理由が理由なのでやっぱり黒田殺す。

「それ、」
「いやぁ、やっぱり私、体脆いからだめだねぇー」
「何が」
「修理に時間かかりそうだからさぁ。しばらく会えなくなっちゃうなーって思って!」

 うまく笑えてるのだろうか。右目を中心にひび割れて中身が見えていそうだが、自分では確認するのも億劫だ。正直今すぐにでもダウンしそうだ。それでもどうしても暫く潜らなくてはならなくて、その間会えないのが…会えないのが、なんとなく、なんだろうか。なんと言っただろうか。思考回路までダメージを受けてるようだ。腹が立つ。

「だいじょぶだいじょぶ、ちゃぁんと見守ってはいるからさ!」

 険しい表情の神父さまが同じように険しいものの少しいつもどおりの表情に戻ったのを確認して、タイムアップ。彼からしたら一瞬で消えたように見えたことだろう。保ちきれなくなっただけだ。あぁ、しまった。おとした歯車をひとつかいしゅうしそこねた。まぁ、あたらしくどこかでぶひんをとってくればいいだけのことだ。うみにもぐる。みぎうでがおとをたててくずれおちた。はやくなおさねば。だがすこしばかり、やすみたい。つぎはもうすこし丈夫に組み立てよう。それで、次こそは、あの男、一回殺してやる。






にどとわたしのものをあいつなんぞにやるものか。

ぽつりと呟いたその言葉が誰にも聞かれる事なく、溶けて消えた。


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▼しんぷさま は くろいはぐるま を てにいれた!
因みに周囲一帯の数キロの範囲内で、電子機器の近くにいる人間からMPを吸い上げる事で一気に回復も可能。ただし、電力がかなり必要らしく停電する困り技。
今回はそれもできずにのろのろ回復しに引っ込みました。おやすみイドるん

mae//tugi
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