「そろそろ飽きたんだが、どう思うかね」
足音を響かせて、いつの間にか白いスーツを纏った黒田がそこにいた。
ユーリ、いや、山吹はその姿に呆れた、と苦笑いをこぼす。
「そうだ、黒田くん。君、転送とかできたよね。
UV命令ー僕をあっちの世界に送って頂戴。」
それが交換条件だと言えば、
黒田は嫌味たらしく恭しい礼をひとつ。
「かしこまりました、山吹さま」
その背後で音もなく空間が裂ける。
黒田にとってはちょっとドアを開けるのと大差はないのだろう。
「いやぁ、僕はなかなか楽しかったけどね」
「わたしもなかなか楽しめましたよ」
よっこいせ、と掛け声と共にその裂け目に躊躇なく足をいれる。
向こう側に確かな足場の感覚。
柵を乗り越えるように山吹は向こう側へと降り立った。
「それじゃあ、次は君がそこに立つといい。」
「えぇ、ありがたく。」
では、またいつか。
その声と共に裂け目が閉じられる。
何度目ともわからない白い世界はこれでおさらばだ。
しかし、あの世界が潰えることだけは間違いないだろう。
そしてゆっくりと山吹は目を開ける。
そこは至って普通の風景。
「…自宅なんて久々だねぇ」
「?…兄さん、なんか言った?」
「いんや、なんでもないよ。
あ、ちょっと出かけてくるね!」
「どうせ隣町だろ」
「なんでわかったの!?」
【交差する世界、繰り返し夢見る世界】
かみさまのいうとおり。
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ユーリが慈愛で、マーリーが希望なら。
黒田は救済の二文字が相応しい。
それは終焉であり終末であり終止符であり、禍根なのだが。
彼は救済といって聞かないし、もはやそれ以外に残るものもない。
袋小路の世界を正しく救済してやっているのだと。
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