「おかあさんはぼくのこと できそこないってよぶんだ。」
「ふぅん。まぁ、合ってる気がする。」

ああひどいひどい、と彼が泣きます。
目という目から赤くて丸い大粒の雫が落ちては床に染みを作ります。
床が汚れるでしょうと眉間にしわを寄せながら彼女はタオルを投げつけました。
しかしタオルは一つだけ。これでは一つの目元しか拭えません。

「おとうさんはぼくのこと みえないふりをするんだ。」
「ふぅん。気持ちはわからなくないかな」

ぐずぐず泣きながら言ったので、口に当たる大きな裂け目からもばたばたと液体がこぼれ落ちます。
ちなみに、今しがた落ちた液体は彼の身体そのものです。
それが見慣れている彼女は額に手を当てて深い深いため息を尽きます。
呆れてもいるようですが、仕方がないなぁと言いたげなその瞳は随分と優しげな色をしていることでしょう。

「ぼくはここにいるけど どこにもいなくなっちゃったよぅ」
「嘘ね。」

泣いているには違いありません。
赤い血のような水滴ですが、それは彼の涙にほかならないのです。
しかし不思議なことに嬉しそうにも見えるのです。
それはきっと、彼女がそこにいるからかもしれません。

ぴしゃりと跳ね除けた彼女に目という目が向きます。
足を組み直しながら彼女は「それは嘘」と繰り返しました。

「ほんとうだよ」
「嘘よ嘘。たしかにあなたは馬鹿で馬鹿で、見えないふりをしたくなるようなやつだけどね」

彼の周りにはすっかりと水たまりができてしまいました。
赤と紫が気持ち悪く混じったそれをどう掃除しようかと彼女は頭が痛い思いです。

「あなたが本当にどこにもいないなら、今頃床は汚れてないわ」
「……………………あ、ほんとうだね!」

彼女は「だから掃除しなさい」と雑巾を投げつけます。
顔にばさりと乗っかった雑巾。
はぁいと気の抜けた返事を返しながら怪物は床の掃除を始めます。
しかしふいてもふいても、新しい汚れが増えていく様子に彼女はもう一度ため息をつくのでした。

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どろどろしてる系怪物とセーラー服女子。
これ



「ああ、でもやっぱりあなたは馬鹿で仕方がないから見たくなくなるわ。」
「えっ?」
「わかったらさっさと浴槽にでも収まってなさい。」

インテリアのごとく部屋に直接設置された浴槽を指さしながら一言。
ずるずると道に跡を残しながら彼はそこへと収まるのでした。

mae//tugi
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