テレビに映るお天気キャスターは相変わらず喧しく騒ぎ立てている。
轟々と吹く風が窓を扉を激しく叩く音で目を覚ました朝からずっとこの調子だ。
 あまりにもその音がうるさくておちおち二度寝もできやしない。
かと言ってこんな暴風の中外に出るほど馬鹿ではない。
仕方なしと重い体を引きずって、部屋の奥へと続くドアを開けた。

 階段をとんとんと降りていくほどに明かりは減り、やがてほぼ真っ暗になった。
地上の暴風、喧騒などなんのそのと地下はしんと静かだった。
そのうえ、煩わしい陽の光も入らない。
 常人であれば足元を見ることもできずに無様に転ぶのが関の山だろう。
とはいえ、こんなところに来るようなもの好きは一部に限られているし、そのもの好きたちは常人とは程遠いので、そのような心配は無用の長物。
 などと言ってるから、未だにまともに明かり一つ取り付けられていないのだ。
これはいいわけだ、言い訳。それ以外に理由はありもしないし、誰も咎めないのだから、結局言い訳は言い訳のまま。

 暗い部屋を素通りし、暗い細道も通り抜ける。扉が見えた。
 錆の目立つざらつく重たい扉を開ければ、さらさらと静かな水音と共にむっと匂いが漂ってくる。
匂いなどというには些か不快な臭いの間違いかもしれないが。
 時間は有り余っていると少しずつ綺麗にしたものの、男以外に誰も来やしないようなこの下水道。
扉を開けてしばらく進んだ先に珍しく人影があった。

「来客とは珍しい…と思ったらお前さんか」
「…貴様か」

 青い鋭い目つきでこちらを睨んでは不愉快そうにしている。
カンテラなどとなかなか古風なものを持っているのを見て、相変わらず時代錯誤甚だしいなと喉の奥で笑う。
 びしゃり、と冷たい水で叩かれた。

「なんでまたこんなところに」
「……さてな。」

 すぐに体温を奪っていく雨も。体をさらわれそうになる暴風も。かといって、眩しすぎて目が焼けそうな陽の光さえも嫌いな自分とは違って、水の化身たるこの男はこの程度の雨ならむしろ恩恵なのではなかろうか。
こんな奥深く、じめじめとした汚い場所に好んでくる理由がないだろうに。
相変わらず勝手なやつで、そりゃあ気の遠くなるほど長い時間を近いところで過ごしたといえども、その考えてることは半分も分かりはしない。

「おい。蟲。」
「はい、はい。なんだい、まったく。これから昼寝しようと思ってるんだけどもね」
「知ったことか。この暴風、どう思う」
「どうって、何がだい」
「痴れ者め、天気予報くらい見たらどうだ」
「雨なら部屋にこもる。天気が良くても、これまたこもる。見る意味ないだろ。」
「貴様だけだ。昨日まで暴風雷雨などと誰も聞いてなかったぞ。」
「”誰も”かい。」
「あぁ。」
「君のとこの狐も黄色の盾も予言者も占術使いも、誰もか」
「くどい」
「そりゃあ…驚きだ」

 正直に言えば彼の口から天気予報などと平凡そのものな単語が出ることに一番驚いた。
だが、続いて聞かされた事実も驚くべきだろう。
このビルが立ち並ぶ街には自分や彼を含めおよそ常人とは呼び難いものが、それこそ山のようにいるのだ。
 そのうちの誰もが今日の悪天候を予想だにしなかったと。
これだけ聞けば天気を気にするなどと妙に平和じみてるが、実際にはそう簡単な話ではない。
 だが、これもまたそこまで驚くに足らないのだ。
彼もまた原因がわかってるからこそ、こうして厭う汚らわしい場所のもとになぞ足を運んだのだろう。
…自分で言っていて少々悲しくなった、が、今は急ぎだ。置いておこう。

「彼女に何かあったかね」
「だろうな。ともすれば…守護者たる我らにも仇なすつもりか…」
「守護者かっこ自称、でしょ。」
「殺すぞ」
「あー短気やだやだ。仕方ない、早にご機嫌取りといこうか」

 予想だにしない悪天候の原因。いくつかあるにしても、最も有力なのはひとつだけだ。
我らがこの街に住まう、気まぐれで恐ろしくも愛らしい、そんな神にも等しい存在が機嫌を損ねたのだろう。


 聞こえないはずの窓を叩く雨音と轟轟とうねる風の音とともに悲しい声が聞こえた気がした。


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ツイッターやらskypeやらでいつも仲良くしてるメンツがおりまして。
やつらを我が家の創作世界観に引きずり込んだことがあります。
そのキャラ化でできたのの一人がこの方です。
語り手側は私の化身、ゴキブリです。ちなみに向こうはアメーバさま。
知ってる人には説明がいらない。知らない方には、まぁ、機会があれば。

バトル系世界観なんですが、その舞台が大都会イメージだったりします。
そして嵐の原因は、都市に住まう神である可愛い幼女がご機嫌斜めだからです。
いやぁ、規模が大きいの子達ばかりで、私はとっても楽しいです。

いずれ他のメンツの話もかけたらなーなどと思っています。


即興小説お題【都会の嵐】より


2013.06.27 移行

mae//tugi
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