「やれやれ、あともう少しだったんだがなぁ。」

もはや隠す気もないようで、彼はそう言って絞首台に登った。
彼で最後だ。これでゲームリセット。我々の勝ち。

荒縄が彼の首にかけられる。
もうすぐ死ぬというのに、その表情は随分と穏やかに見えた。
ゆっくりと雲が美しい青空を眺めてから、墓地のある方向へと目を向ける。
既に彼のお友達は先にいってしまった。彼がそう言っていた。

…そうか、もう、いないのだ。
彼が心配してやまない、ちょっとばかし頭の足りない同族も。
彼と彼女が大好きで仕方がなかったあの子も。
そんな三人について回っていたあの人も。
先にいって、彼このことを待っていることだろう。

「なぁ、おっさん」
「おにーさんと呼びなさい。」
「まだ言うか、おっさん」

終わるというのに、なんだかいつもと変わらない。
へらりと笑う彼の首には確かに、縄があるというのに、変わらない。
だからだろうか。なんとなく、泣きたい気持ちになった。

「おいおい、なんでお前さんがそんな顔をしてるんだ」
「…うるせー」
「さみしい?」
「知らね」
「おにーさんはねー寂しくないよ」
「死ぬのに?怖くないの?」
「怖くもないね、あいつら待ってるもん」

なんだ、おっさんも同じこと考えてたのかと安堵した。
自分がなにをこんなに複雑な気持ちに駆られているのかがわからなくて、
彼ならなにか答えを知っているんじゃないかと、すがりたい気持ちになる。
彼と自分がおそらく同じことを考えているからこそ。
それでも、彼ほど長く生きたわけでもない自分では答えが出てこないのだ。

「俺が死んでも、」

唐突に彼が声を発した。
いつもの軽い調子ではなく、悪巧みをするときの低い低い声で。
見上げた彼の表情は至極楽しそうな笑顔だった。

「夜が来ればお前たちが俺たちを思い出す」

これから永遠、夜が来れば彼らを思うだろう。
今まで死んだ全員を想うだろう。
彼は言うのだ。
だから、寂しくなど、怖くなど、ないのだと。

彼は笑顔だった。最期まで。


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あくまで、ゲームリセット。
副タイトル:天国ルームでまた会いましょう。
人狼ネタでした。
村人、狼ほか全員設定は決まってるのですが…まぁ、深く考えず。

即興小説お題【忘れたいおっさん 】より

2013.06.27 移行

mae//tugi
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