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基本的にラグナ・レウァールという人間は静よりも動。冷よりも熱の人間である。賑やかなことだってもちろん大好きだ。きっと、毎年エスタ国民から盛大に誕生日を祝われることを恥ずかしがりながらも、その輪の中へ飛び込んでいたに違いない。
だが、今年は違う。
ラグナに対してスコールは、騒々しいことが好きではなかった。幼なじみ達が騒いでいるときでさえ、輪には入らず傍らでそれを眺めている。見ているだけで十分楽しめるし、ゼルやアーヴァインやセルフィのように大騒ぎするには、彼の性格はドライすぎたのだ。
おそらくラグナは、そんなスコールが1月3日のエスタの空気に堪えられないと思ったのだろう。

(俺に気を使ってくれたばかりに……)

例年通りいけば、つまらないパーティーでくだらない縁談を愛想笑いでやりすごすことは無かったはずだ。
そして、おそらく自分がいたせいで、エスタ国民からラグナを取り上げてしまったような罪悪感。そして、背景も知らずにただただ二人で過ごすことだけを望んだ自身の幼さを恥じた。
光源が月明かりのみであるとはいえ、そんなスコールの暗い表情にラグナが気付かないはずが無い。

「……スコール」

ラグナはそれ以降、何も語らずにスコールの肩を抱き寄せるだけだった。

「馬鹿……誰か来たらどうするんだ」
「大丈夫だろ…このクソ寒いのに外に出るやつなんかいねぇって」

口では拒絶めいたことを口にするも、スコールは抱き寄せる腕を振り払うことなくされるがまま、ラグナの肩に頭を預けた。

「それに、キロスが“仕事にならないから今日はなるべくスコール君に近付くのはやめたまえ”なんて言うから、今日の俺スコール不足なのっ」

きっとそれは、優秀な大統領補佐官殿の密かな抵抗だったのだろう。彼としても、ラグナはなるべくエスタ国内に留まっていてほしかったはずだ。
何せ、英雄不在の国をあげての誕生日は今年が始めてである。例年よりも盛り下がるか、それとも不在に怒り暴動でも起きてしまうのかは誰にもわからない。
ラグナよりも仕事熱心な彼が、いくら愛息兼恋人絡みの行動とはいえ、何も言わなかったはずがないのだ。
大統領としては、国を離れるべきではないのは明白だ。だが、ラグナはたった一人の人間のために動いた。
スコールはそんなラグナの想いを素直に嬉しく感じながらも、反面、大統領として軽率な行動に呆れもする。

「……きっと、今日の政治家達のラブコールは自分勝手に動いたラグナに罰があたったんだろ」
「ははっ……かもな〜」

しかし、そうでもしなければ、エスタではどこにいても騒ぎの中心となる一日だったはずだ。

「ホテルに帰ったら、ゆ〜〜〜っくり誕生日を祝ってくれるんだよな?」
「……ん」

たとえラグナが誕生日を忘れていたとしても、プレゼントを渡すくらいはしたい、と物は用意してある。
もちろん、それだけで終わるほど二人は枯れていない。

「――すっかり冷えちまったな。そろそろ戻るか」

ラグナよりも先にテラスに出ていたスコールの手はすっかり冷たくなっていた。
戦う者としては少々繊細な印象を与えるすらりとした指がラグナのものと絡んだ。

「こんなに冷たい」
「ラグナはあったかい」
「このあとのこと考えるとコーフンして体温上がるんだよ〜」
「……まだパーティーが終わるまで結構時間があるんだからな」

すでに気持ちはこのあとのことへ向かっているラグナを窘めつつも、スコール自身も心臓が常より駆け足になっているのを感じた。
名残惜しく思いつつ、ラグナの肩に乗せていた頭を上げ体を離す。それが合図だったかのように、ラグナがスコールの背へ手をまわし、会場へ戻ろうと促した。
パーティーが終わりホテルに戻る頃には日付は変わってしまっているかもしれないが、プレゼントも祝いの言葉もそれまでお預けである。しかし、その分濃密な夜を過ごせるはずだ。
テラスに入ってきたときとは打って変わって、機嫌良くスコールはその場を後にした。

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