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「…そう言や、次の当番は誰だったスかね」

ティーダが妙な空気を掃おうと皆に投げかけたか、はたしてそれに効果があったのかは疑問だ。
発言者は腕を頭の後ろで腕を組ながら、隣にいたオニオンナイトを見下ろすが、少年は静かに首を横に振った。次いで、紅一点ティナへと視線を移したが、彼女も「誰だったかしら」と口にして考えているところを見ると違うようである。ティーダとしては、女性であるティナと子供のために体格もまだ未発達なオニオンのどちらかなら、見た目的に違和感が無かったのに、と期待していたのだ。
そう、蜂蜜の色香装備は装備者だけでなく、周囲の人間もいたたまれなくするのである。何が悲しくて野郎の女装を見なければいけないのか。

「…俺でも無いからな」

どういうわけか女性専用装備も装着可能なクラウドが、先手をうつように言った。フリオニールも便乗するように違う、と首を降る。

「そうだね。クラウドはこの前やっていたから、えぇっと次は…」
「………クラウドの次はスコールっス」

もともとスコールはあまりこういったイレギュラーな出来事に首を突っ込むタイプではない。いつも、皆から一歩引いたところから無表情に事態を見守っているのだ。
そのポーカーフェイスが、今回はどこか歪んでいるようにも見える。

「ではスコール。今日の素材収集の際はこれを使うように」

これまた無表情のWolが無情にもスコールに宣告した。だが、それに黙って頷けるほどスコールは矜持を捨ててはいない。

「…化粧なんてしたことない」
「ティナはできないか?」
「ごめんなさい…自信が無いわ」

あまりに多くの道具や化粧品達はあきらかに本格的に揃えられたものだ。それらを使いこなせる確証が無いのか、それとも男性陣に気を使って扱えないフリをしたかは不明だが、ティナは申し訳なさそうに眉を寄せた。

「ではジタンはどうだ?」

箱の正体を見破ったのがいけなかったのだろう。Wolの期待の矛先が向けられ、感情をあらわにしやすいジタンの尻尾がピンと緊張で跳ねた。

「あー、いや、まあ、使えないこともない…かな?」

そして、薄氷色の瞳の迫力に負け、なんとも曖昧な返答を返してしまったのである。

「使 え る ん だ な ?」
「……………使えます」

折角のティナのフォローを無駄にしやがって…という無言の圧力を多方から感じていた。特に、皆の輪から少し外れた場所…見ずともわかる。今回、被害にあうスコールだ。

「では早速探索へ向かおう。皆、準備をしてくれ」

各々装備を整えるために自室へと戻っていく。そんな中、ジタンとスコールの足取りだけが重かった。

「本当…ごめん」
「…アイツを止められるのはコスモスくらいだ」

言外に気にするな、と告げるスコールはいつも通りの無表情ではあるが、その声音は心なしか常より柔らかい。
もう少し、こういった心配りがわかりやすくなればいいのにと、不器用な年上を心配しつつもジタンはスコールの部屋へ入った。
スコールの部屋、とは言うが現在はクラウドとの相部屋である。すでにもう一人の住人はバスターソードをはじめとした装備のチェックを行っていた。

「んー、じゃあ、ま。始めるかー」

適当に腰掛けてから、改めて化粧箱の蓋を開けた。一式揃っているだけあり、ヘアバンドやピン留めまで用意されている。ジタンがシンプルな黒の髪留めでスコールの長い前髪を固定すれば、形のよい額があらわになる。その中央を走る切り傷をもったいないと思いつつ、ジタンはスコールの顎に指をかけ顔を上向かせた。

「目、つぶってくれ」

特に抵抗もなくスコールの瞼がおりる。際立つ長い睫毛に胸が跳ねそうになり、ああ、相手が女の子だったら最っっっ高なのに!とジタンが嘆いていたときである。
スコールの細い顎をとらえていた手首に、他者の手がかけられた。

「…俺がやろう」

クラウドである。
事態の把握に時間を要し、ぽかんとジタンがクラウドをまるくした目で見つめていると、焦れたのかジタンの手首を掴むクラウドの指に力が込められ、それによる痛みでジタンはようやく我にかえった。

「え、化粧できんの?」
「できる。昔、女装で敵地に潜入しなければならないときに教えてもらった」

なら最初からそう言ってくれれば、自分はWolの絶対零度の瞳に射抜かれることも仲間達からの忌ま忌まし気な圧力も感じることは無かったのではないかとジタンは一瞬思ったが、クラウドが蜂蜜の色香を標準装備できることを普段からティーダあたりからからかわれていることを思い出した。それにつけくわえ、化粧もできるなどと知られれば、“本物”と勘違いされると怖れるのは仕方が無いだろう。
そう思い至れば、男気溢れるジタンである。仲間を責めることなどできなかった。

「じゃあ、頼むよ……でも、どうしたんだ急に?」

しかし、何故今頃になってクラウドは名乗りをあげたのだろうか。ジタンはティーダに告げ口するような性格ではないが、どうせなら最後まで黙っていれば誰にもその特技が知られることは無かっただろうに。

「…まさかこんなに無防備な顔を晒すとは思わなかったんだ」
(―――それって、スコールのことか?)

当の本人は、いつの間にか目を開いてジタンとクラウドのやり取りを不思議そうに見つめている。
言葉の真意を正確に理解できているかなど、ジタンにはわからない。だが、もし自分の予想が正しいのであれば、とっとと退散するに限る。
一先ず、自分にメイクを施す人間がクラウドに替わったと理解したらしいスコールが、さきにジタンにしたように顔を上向かせ瞳を閉じた。それによって、白い頬を赤く染めながらも化粧道具を手にするクラウドを微笑ましく思いながら、ジタンは部屋を後にした。

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