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セクシーコロン
会員カード
ブロンドのかつら
シルクのドレス

この一式を好んで装備しようとするものはいないだろう。戦闘には向かないヒラヒラした衣服は動きにくいことこの上ないだけでなく、着用者が男性である場合は着る者に羞恥を感じさせる。
しかし、どういう原理かは不明だが、これを身に纏えば素材が手に入りやすくなるということで、素材探索の際は誰か一人がそれを装備するというのは暗黙の了解になっていた。

強い装備品が手に入るまでの辛抱―――。

皆、そう自分に言い聞かせながら淡々と“蜂蜜の色香係”をまわしていた。
そんなある日のことである。

「みんな…聞いてくれ!」

皆がコテージのリビングで朝食を済ませた頃、神妙な面持ちで叫ぶように言ったのはバッツだった。彼はもとより騒々しい男であったので、大きな声を出していることは珍しくない。しかし、このときの彼の声には真剣さが多分に含まれており、何事かとその場にいた者達の注目を集めた。
バッツは18の瞳が自分に向けられたことを確認すると、意を決したように背後から何かを皆の前に差し出した。

「…なんだこの箱は?」

その場にいたバッツ以外の者が抱いた感想を代表するかのようにそう言ったのはWolだった。しげしげと箱を見つめた後、返答を求めるようにWolの薄氷色の瞳がバッツを射抜く。
バッツがそれに臆することが無いのは、肝が据わっているからか、それとも後ろめたいことが無いからなのか―――とにかく、いつもとかわらぬ朗らかな表情を微塵も崩さずにWolの問いに答えようとしたが、その前にバッツとWolの視線の外、というより下方からの声により、それはかなわなかった。

「あー。やっぱ化粧箱じゃねえか、これ?」

慎重派ではあるが、柔軟な思考を持ち合わせているジタンは、バッツが持ち込んだ箱が危険物でないとすでに判断していたため、早々に手を伸ばしていたようだ。元の世界では盗賊兼劇団員をしていた彼は、それに見覚えがあったのだろう。箱の蓋をとめていた金具を外し中身を窺えば、そこにはティナとジタン以外の男達にとって縁の遠いものが所狭しとつめられており、一枚の紙がそんな化粧品の隙間に無造作にねじ込められていた。
それまで静観していたWolも、ここまでくれば危険物ではないと判断したのだろう。検品に加わりその紙を手に取った。

「……どうやら、蜂蜜の色香装備を強化するためのものらしい」

一通り目を通したWolが隣にいたセシルへ紙を渡す。フリオニールもそれを横から見て、二人も内容を確認すると同じように順に紙が回されていった。それに目を通した後の皆の表情は、一様に苦虫を噛み潰したように歪んでいる。

「バッツ、どうしたんだよこれ」
「昨日、ショップに売ってたんだよ。『超レアものの限定品クポッ!』って言われて、つい買っちまったんだよな〜」
「超レアものの限定品…。まあ、蜂蜜の色香装備の効果50%アップのアクセサリなんてレアっちゃぁレアか…」

化粧箱の中身を熱心に見ていたティナとバッツと会話をしていたジタンの手にも紙が渡り、それを読み終え唸るようにジタンは呟いた。
素材の入手率が上がるのは願ったり叶ったりである。だが、だからと言って、服装だけでなく化粧もしろと言われて素直にそれを承諾できるかと聞かれると必ずしもそうではない。
時に様々な役や衣装を宛てがわれるジタンですら躊躇うのだから、他の者達はさらにそれは顕著だろう。

「ふむ…その効果は無視できないな」

かしゃん、と鎧を鳴らしながらWolが顎に手を当て、思案顔で肯定的ともとれる発言をしたことから、音もなく周囲がざわめいた。過去の記憶が無い為か、それとも元の性格か判断しづらいが、一般的な常識が通用しない所が彼にはある。皆、そのことを失念していたわけではない。まさかここまでとは、と驚きを隠せなかったのだ。

「よし…では早速これを使用しよう」
「待ってくれWol。せめてティナが当番の日だけの使用にしないか…」
「フリオニール。ティナだけでなく皆で使用したほうが効率も上がるし、素材集めをする回数が減るということはそれだけ皆の負担も減るということだろう。何より、戦いを長引かせずに済む」

正論である。論破されてしまったフリオニールは、むぐっ、と声を詰まらせそれ以上口を開くことは無かった。

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