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!)ラグナが女性と結婚します


快晴である。
雲の存在は、まるで知らないとでも言うようにどこにも無い。澄んだ色をした青空は、今日一日がよき日であることを予感させはすれど、しかし、スコールにとってはそうではない。頭上に広がる蒼は、自身の絶望を後押ししているようにも思え、朝の光を部屋に取り込もうとカーテンに手に掛けていたが、ついにそれは実現することがなかった。

(…顔、洗わなきゃ)

薄暗いままの室内でほんやり思ったが、足が動いたのはそれからたっぷり二分はかかった頃だろうか。
無気力だった。いつもならば、無駄な動作無く行われる数々の動きが、こんなに怠慢だったことは彼の人生において例を見ない。
それもそのはずだった。

今日、ラグナが結婚するからだ。




スコールがラグナとはじめて出会ったのは、魔女アルティミシアとの戦いのさなかであったが、広義には少し違う。スコールにとっては幼少期、実の姉のように慕っていて、ラグナにとっては実の娘のように愛していたエルオーネの不思議な能力によって、スコールはラグナの過去を覗き見ていたし、ラグナの側にも頭の中に他者の存在を感じ取っていた節があった。
何も考えていないお気楽な奴。最初はそうとしか思っていなかった。しかし、どこか憧憬する気持ちもあったのだ。自分もこんなふうに生きることができれば、と。ラグナの、自分には無い部分に強く惹かれたのだ。
そして、その想いは実際に顔をあわせてさらに大きく膨れ上がった。
今まで見てきた気楽さに、壮年の男性の円熟味が増して、スコールの目にはこれまでに見たどの人間よりもラグナが魅力的な人間に見えた。
それは、すでに憧れ以上となっていたその感情を少々持て余しつつ、魔女を打ち倒し戦いの名残も落ち着いてきたときのことだった。
その頃には、スコールはもうラグナへの感情の正体を見抜いていた。持て余していたのは、着地点が見当たらないことだった。同性同士である。このまま、自身の中で気持ちが薄れるのを待つしかないのかと思っていた。
しかしその想いは、意外な形で幕を閉じることになった。

「親子なんだよな、俺達」

手を頭にやって、俯き加減になるのはラグナが照れたときの癖だ。過去の彼を幾度か見たスコールは、そのことに気付いていたが、告げられた言葉の重さにラグナのことを考えている余裕は無かった。

「エルオーネからだいたいは聞いてる。つらい思いさせて悪かった」

似てないな、と、ようやく冷静さを取り戻して思った。
自身を射抜く翡翠の瞳には、申し訳なさと、今は亡き母であろう女性を重ね合わせているのだろうか、どこか懐旧の念も込められたその眼差しに耐え切れなくなり、スコールは体ごとラグナから視線を逸らした。

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