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ぱたぱた、と軽い足音に子供達の誰かが来たのだろうとシドは振り返った。お転婆のセルフィか、お調子者のアーヴァインか、はたまたお腹を空かしたゼルか。スコールは病人だ。あまり騒がしくするのは良くない、と引き返させようと下ろした視線の先には、予想外の人物がいた。

「先生、お姉ちゃん…スコール、またちょうしわるいのか」

輝くような金髪がシドのわきをすり抜けた。金髪の子供は三人いる。しっかりもののキスティス、少し気弱だが明るい性格のゼル。そして、今やってきたサイファーだ。彼はがき大将的な性格で引き止めようかとも思ったが、彼が騒がしくするときは相手がいるときだけだし、子供達の中でも賢いほうの彼が病人の前で何かするとも思えず、シドは伸ばしかけて半ば浮いた手を引っ込めた。

「大丈夫よ。ちょっと風邪をこじらせただけだから」
「すぐなおるのか?」
「あと2、3日は寝てないとだめよ。なあに?心配なの?」
「ちがう!ただ、ゼルとアーヴィンをからかうのも、あきただけだ」

心外だ、というように少年――サイファーが小さくじたんだを踏んだ。しかし、それは図星を突かれての行動なのだろうとううことを、年長者は察していた。

「そうだったの…でも、スコールはまだお話をするのも大変だし、私も離れられないから…ごめんね」
「私が遊んであげましょう。さぁ、サイファー何をしますか?怪獣ごっこ?それとも兵隊ごっこにしましょうか」

しかし、シドが退室を促そうとしてもサイファーは動こうとしなかった。表情をうかがえば、ふてくされているのか、口をヘの字に歪めている。キスティスと同じく、エルオーネを除いたみんなより一つ年上の彼は、普段は駄々をこねることは少ない。孤児という優遇されていない立場を、幼い頭で理解しているのだ。
だが、エルオーネがそこに絡んでくると少し違ってくる。エルオーネがスコールを一際可愛がってしまうのは無理もないことなのだが、そこまで理解できないのだ。いや、理解したくないのかもしれない。大好きなお姉ちゃんの一番でないなどは。
しかし、シドやエルオーネの予想に反する呟きがサイファーの口から漏れた。

「べつに、あそびたいわけじゃなかったんだ…でも、びょーきのときは“おみまい”するといいってまま先生が…」

思い起こされるのは、数週間前にシドの妻、イデアが風邪をひいたときのことだった。子供達にうつしてしまわないようにと、熱が下がるまではイデアはシド以外との接触を絶ったのだ。その面会謝絶が解かれたときに、“お見舞い”の意味を知ったのだろう。

「サイファーは、スコールのお見舞いに来てくれたのね?」

エルオーネが問えば、恥ずかしそうにしながらもサイファーは頷いた。
エルオーネが慈愛の笑みをたたえ、サイファーの金糸の髪を撫でる。

「スコールもきっと喜ぶわ」

その言葉にサイファーは頷かなかったが、しかしベッドの上を見つめる眼差しには愛心の念がこめられていた。

「はやくなおすんだぞ、スコール」
「…その言葉が、一番の薬ね」

遠くから複数の小さな足音が聞こえる。今度こそ、誰かがお菓子をねだるために自分かイデアを探しているのだろうと、シドは部屋を後にした。

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