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キスがしたい。と思っても、なかなかそれを行動に出来なくて、クラウドはポーカーフェイスの下で悶々としていた。

クラウドがスコールと所謂お付き合いを始めたのは、一ヶ月前だ。そもそも、時空や空間がねじ曲がったこの世界でその一ヶ月が正しいかはわからないが、皆の体内時計頼りのカレンダーはあの日から一ヶ月が経ったことを知らせていたので、とりあえずは一ヶ月前なのだ。その一ヶ月で、クラウドとスコールは何かをしたのかというと、何もしていない。キスどころか抱きしめることも手を握ることもしてないのだ。クラウドもあまり恋愛経験が豊富なほうではないが、しかしスコールのそれは少し違う意味で酷い。こうなると、あの日の告白は夢か幻だったのではないかとも思えてくる。

きっと過度の受け身体質なのだろう。確かに、自らスキンシップを積極的にする性格ではないのだからと、自身を慰めながら日々を過ごすのもそろそろ限界だった。会話だって二人の間に特別なものはない。ならば目で何か伝えようとしているのかと注意深く見つめても、そもそもコミュニケーション能力が低いスコールがアイコンタクトをすること自体があまりなかった。

この状況を改善するには、なにか大きなアクションを起こさなければならない。そう考えて、クラウドはスコールの唇を狙っていた。自分は一応、彼の恋人であるはずなのに何故…と、そう思わなくもないが、一度思考に沈んでしまうと浮上に時間がかかるので、そうやって後ろ向きになりかける度に頭の中をクリアにしていた。というより、当初の目的のどうやってキスをするかということのみに集中し直すのだが。

そもそも、クラウドとスコールにはじゃっかんのリーチの差がある。単純な力勝負ならばクラウドのほうが勝てるだろう。だが、別に押し倒したり押さえ付けたりしてまで唇を奪おうなどとクラウドは考えていない。いや、そんなのももちろんしてみたいが、それはそういうプレイだとわりきった上で臨みたい。第一、そんなことをしてしまえば、いくらスコールがクラウドのことを好いていても、警戒心を揺り起こしてしまいその後の関係にまで影響が出ることは容易に想像が出来る。それだけはいけない。なので、あくまで不意打ち、もしくはキスがしやすいムードに持っていくかしなければならない。しかし、後者は今までの経過を見るかぎり難しいだろう。そこで、スコールの隙をついて口づけをということだが、一流の傭兵でありなおかつスコール自身の性格上、隙らしい隙が無いのだ。これでクラウドがスコールより低いのでなく高いのであればもう少しやりやすかったのだろうが、残念ながら21歳を迎えた彼にこれ以上の成長は難しいだろう。むしろ、まだ17歳のスコールに引き離される危険もある。

もっと身長が高ければ、顎を捕らえられ頬を赤らめながら顔を上向きに口づけを待つスコールを拝んだりできたのだろうか。
その想像は一気にクラウドの脳内で膨れ上がった。189cmの自身がスコールを抱きしめ、彼の細い顎を捕らえているのだ。ちなみに、何故189cmかというとキスのときに理想とされている身長差が12cm差だからだ。涼しげな目元はうっとりととろけ、次第に近付く互いの唇に瞳は閉じられ、長い睫毛が白い肌に陰影を描き…。

ストライフ脳内劇場で濃厚な口づけが繰り広げられている頃、スコールはクラウドの様子を一部始終見ていた。
他者からの評価を、たとえそれが少々歪んだものであるとしても気にしていた彼は、人の感情の機微に敏感だった。もちろん、クラウドがスコールに邪まな感情を向けているのも気付いていたし、最近なにか悩んでいることも知っていた。

力になりたい、と思わなかったわけではない。しかし、自分が口出しをしていい問題なのかわからなかった。時が来れば話してくれるだろう、とお得意の消極性を発揮したのだ。

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