La Famiglia | ナノ





01


「ただいまー」



何日ぶりの我が家だろう…
でも週に1日でも戻って来れるだけマシかもしれない



『おかえりなさい。ご苦労さま♪』
「うん」



彼女の顔を見てホッとするこの瞬間がたまらなく好き…
だけど…



「陽介は?」
『さっきやっと寝たとこだから起こさないでね?』







カチャッ



「ただいま…」



1週間ぶりに会う我が子の寝顔を覗きこむ
本当に息をしているのかいつも気になって指先で頬に触れて自分よりも高い体温と時折動く瞼にドキドキしながら彼の存在を確かめる

今は、この瞬間が俺の疲れを吹き飛ばしてくれる
睦月よりも大事になったわけじゃない
睦月以上の存在はいないし、誰も彼女の代わりなんてなれない

だけど

陽介が生まれ、この子以上の存在もいないし、彼の代わりもいない
大事なものは増えていく事に気づかせてくれたのは睦月と陽介
睦月と出逢ったばかりの頃の俺は、本当の恋愛をする事に怯えていた
自分が誰かを愛するという事よりも愛される事に戸惑いを感じていたから
それを誤魔化す日々を送っていた
本気になったらいつか自分が傷つく…
それなら始めから本気にならなければいい…
自分が傷つく事が怖くて他人を傷つけていた
気づかせてくれたのは睦月





「…ふぇ…」



眠っていた陽介が急に泣きだした
怖い夢を見たのかもしれない…



「ほら…怖くない…怖くない…」



彼をそっと抱き上げあやす
陽介の泣き声を聞いて睦月が部屋に入ってきた



「この前抱いた時より少しだけ重くなってる…」
『日々、成長してるんだよ?』



ニッコリと微笑む睦月の表情は出逢ったばかりの頃のあどけない少女ではなく
まだなり立てではあるものの母親の顔をしていた
女性って…凄い…



「睦月…」
『ん?』
「陽介が出来て男の子だとわかった時、コイツ生まれたら毎日ヤキモチ妬くと思ってた…
毎日毎日、睦月の一番を取り合うんだって…でも…」



嬉しい気持ちよりも睦月が陽介に向けた表情に嫉妬したんだ
だけど



「違った…睦月にそっくりな陽介見てたら…そんな気持ちなんて吹っ飛んだ
今は…睦月のように優しい子に育ってほしい…
睦月の様に強く育ってほしい…
いつか…好きな子が出来たら、不器用でもいいから全力で愛して守れる男に育ってほしい…」



まだ俺の腕の中で泣きやまない陽介をホントに愛おしく思う…



『…京介くん…』



出逢ったばかりの頃の様に今も尚そう呼ぶ睦月



『任せてもいいかな?よっくんの事…』



微笑んで小さく頷くと彼女が部屋から出て行った
まだ、泣いている陽介…
不思議と煩わしいとも思わなかった



「…今はたくさん泣いて俺たちを困らせていいんだぞ
でもな…いつか大きくなったら男は泣けなくなる…いや、泣いちゃいけないんだ…
これは…俺の親父、お前のおじいちゃんが言ってた事だけど…」



まだ俺が赤ん坊の頃、深夜に帰宅した親父が俺を抱っこして話しかけてたらしい



「男は一生に一度だけしか泣いちゃいけない…親が死んだ時だけ…
あとは、歯を食いしばれ…
強い、強い男になれ…陽介…」



たった一度だけ母親から聞いた話
忙しい親父と顔を合わせる事もなかったけど子どもながらに感動したんだ
いつもサヤの陰に隠れて泣いていた俺は強い男になるって…歯を食いしばるんだって決意した

今でもあまり会話する事がない俺と親父だけど自分が親になって初めてわかる事もたくさんある
今度…一緒に酒でもと誘ってみよう
こんな風に俺が急に泣き出したりした時、抱き上げてくれたかな…

そんな事を考えているといつの間にか陽介が泣きやんでいた
ゆっくりと起こさない様に布団に寝かせ、涙の跡を拭いて顔を覗きこむ
見れば見るほど睦月に似てる…
目が大きいところも…
唇の形も…
プニッとしたほっぺたも…
俺に似てるところは…?
赤ん坊の顔はどんどん変わるって言うし、と悠長に構えていたが
どんどん睦月へと似る…
可愛いし男の子は母親に似るっていうけど…



「…爪の形は俺似か…?」



必死に自分に似てる部分を探そうとしてる俺に驚いた
ギュッとてのひらを握って眠っている陽介の小さな指に触れる
くすぐったいからか一瞬指を広げてまたギュッと握った
俺の指も一緒に…


その小さなてのひらにどんな未来を握っているんだろう
それは俺も睦月も陽介にもわからない遠い未来…
いろんな可能性を秘めた未来…















『…よっくん、泣きやんだ?』



中々部屋から出てこない京介くんが心配になって部屋を覗いた
ほんの少しだけの男同士の時間…
ホントは聞いていた
お義父さんの話も自分に似てるとこを必死に探してる事も…
きっとお義父さんだって小さな京介くんを見て自分に似てるところを探したと思うな
だって…親子だもんね…

男の子ってそうやって歯を食いしばってるって知って…
よっくんにもお義父さんや京介くんのようになってほしいって思っちゃった
京介くんだって優しいよ…そして強いよ



『ほんと…自分の事、全然わかってないよね?』



ふぅっと息を吐いて2人に近づく



『こんなにソックリな寝顔なのに…どこからどう見ても京介くんの息子だよ…』



彼の人差し指を握って眠るよっくんに寄り添うように寝息を立てている京介くん
よっくんの反対のてのひらに自分の人差し指をねじ込む



『ママだけ仲間はずれなんて、ヤダよ…』









-01.てのひら end-
2012.06.24




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