揺れる | ナノ





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やっと来たか…藤堂…



「お前、篠原を置いて帰ったんじゃなかったのか…」



入口には今にも襲いかかってきそうな一匹狼が眼の色を変えて立ってやがる

そんなに心配なら、なぜさっきコイツを置いて帰った…

聞きたい事は山ほどある

だが、今はそんな事はどうでもいいか



「…由紀。お前、今 美花に何をしようとしたんだ…」

『ちがっ…零…』

「黙ってろ!」



篠原の言葉を制止する

まぁ、今のコイツに何を言ったところで聞きゃーしねぇな

有り余るほどの情熱…

今の俺には…ないモノだな…

いつの間に捨てたんだ?


こいつらと同じ歳の頃は、まだ持っていたはず



「別に…?こいつを置いて帰ろうとした奴が、俺と篠原がこれからやろうとしてた事を気にしなくてもいいだろうが…」



藤堂の眉間に益々シワが寄る



「あぁ…。確かに俺は、美花を置いて帰った…。だが、美花を困らせたり、嫌がる事を強要する奴にそんな事言われる筋合いはない!」



コイツは普段、他人に興味がなくこんなに必死になった姿なんか見た事もなかったが…

十分アツイ奴だな…

ある意味、俺が最も苦手とする部類の人種かもな…



不意に篠原を見ると、こちらを少しも見ずに心配した表情で藤堂を見てる


なんだ…

やっぱ、コイツには藤堂しかいねぇじゃねぇか…



「…篠原、気分は?」

『え?』

「歩いて帰れるか…?」



少し困った顔をして



『…はい…』



藤堂と二人きりになる事に戸惑っているのがわかる



「…しょうがねぇなぁ…。藤堂、お前この荷物持って先に俺の車に行ってろ…」

「あぁ?…だから、アンタと美花を二人だけになんでできない!」



全く…

めんどくせーなー…



「てめぇが考えてる事なんかしねぇよ。ただ、少しだけコイツと話をさせろ!」





















さっきまでの由紀の表情とは違う

コイツはいい加減だが、こんな時に嘘は言わない…



「…わかった…。荷物は?」

「篠原の鞄とこれだ…」



そう言って渡されたのは、車のキー…

ポケットにキーを入れ、美花に声をかけた



「…なんかされそうになったら、すぐに電話かけろよ」

『…う、うん…』



なんの話をするのか気になりつつも化学準備室扉を閉める

そっと背を向け、その場を後にした

















由紀の車に寄りかかり、二人が来るのを待っていた

ここから化学準備室の明かりは見えない


何を話しているのか、何かされてないか…

俺の頭の中は、アンタの事で一杯なのに



『零!!』



俺を呼ぶ声に我にかえる



「…由紀は…?」

『職員室に寄って来るって…』

「何にも…されてないか?」



俺に近づいてくると、コクンと彼女が頷く



「…そっか…よかっ…美花?」



美花は頷いたまま顔を上げずに、俺の制服を掴んでいた



「…ど…した?」

『…零…あ、あのね…?』



彼女の顔を覗き込もうとした時…



ゴン!!



「つぅっ…」

『いったーい!』



ものすごい音と共に、痛みが走った



「大丈夫か…?」



俺は自分の顎を押さえながら、頭を押さえたまま座り込んだ彼女に声をかけた


やっと…

美花が顔を上げてくれた

少し涙目になっているのが月明かりに映し出されていて…


その瞳に俺は吸い込まれていった


抵抗しない彼女…

そっと重なる影…

唇に感じる美花の温もり…


さっきまで心にかかっていた雲が一気にはれていく


キスをしたまま、彼女の頬を両手で包み込んだ…


逃げないように…

離したくなくて…

そして

何度も何度も啄むようなキスを繰り返した

キスとキスの合間を縫う囁きは、美花の頬を熱くした

















先生の車に寄り掛かった零を見つけて近づいた

月明かりをバックに零のシルエットがすごく綺麗で…

心臓が飛び出してしまいそうなくらい跳ね上がっている



――これ以上の事は、好きな奴とじゃないと出来ない…



先生の言葉が頭の中を駆け巡る


私は…

零と先生…二人の間で揺れている

先生とは…出来なかった

でも、先生に少し惹かれていたのは確かだったと思う

私が本当に零の事を好きなら…



『…零…あ、あの…あのね…?』


よしっと気合いを入れて、勢いよく顔を上げた瞬間…

頭に激痛と共に星が飛んだ

なんか…クラクラする…

頭を押さえて座り込むと、零が心配そうに顔を覗き込んできた

まだ目の前がチカチカする…


そう思った時、唇に私のものではない温もりを感じた

すぐに零とキスをしているとわかったけど、抵抗することも忘れて彼の熱を感じていた


柔らかくて、気持ちいい…

全然…嫌じゃない…

先生の言ったとおりだ


啄むキスの合間に囁かれた言葉



「好きだ…美花、誰にも渡したくない…」



私が揺れていたから、零の心も揺れた

もう…揺れない…





















始めから、アイツは藤堂の事しか見えてなかった

ま、俺くらいの男を前にして揺れないなんて奴がおかしいと思うがな…





「夏男?…今夜飲みに付き合え。藤堂と篠原はまだ学校だ…。あぁ、ちゃんと送りとどける…」



やっぱ、俺らしくないな…

アイツらのキューピッドなんざ、俺のガラじゃねぇ

だが…

たった半日でガキの顔から、女の顔になった篠原にちょっと俺もやられかけたな…

女は怖ぇ…

ま、せいぜい篠原に振り回されるんだな、藤堂…




















抱きしめた この腕を

もう離さない

二度とその瞳を戸惑いで曇らせないと誓う

















『零…好き…』



お願い…離さないで

私を繋ぎ止めて…













-end-

2010.10.01

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