あなたを好きな証 | ナノ





06






恋をして大人になっていく…

あの頃、私はまだ子供だった

与えてもらったのに…

与え方を…知らずにいた















胸の中に芽生えた小さな不安をかき消すように私は唄った

個人の仕事を始めてから、雅楽とまともに話をしていない

余計な事を考えながら唄ったせいか、瑠禾からのダメ出しの多さに声が出なくなってきた



「もういい。今日は終わり…」

「瑠禾!」



私の歌を瑠禾は認めてくれない

益々落ち込んでいく…

この日は解散になり、後日改めてレコーディングを行うことになった

メジャーデビューして、こんなレコーディングは初めてだった

自分の思い描いた様に歌えない

瑠禾の要求に応えられない

そして…

雅楽がそばにいない…

自分の中でこんなにも雅楽の存在が大きかったことを忘れていた気がする

雅楽の存在の大きさに気がついた時

私の手が小さく震えていた



「珍しいな、お前が録り直しなんてよ」

「…体調が悪かっただけ!」



意地悪な雅楽の言葉にムッとして、そう答える



「…今日、何の仕事だったの?」



機嫌悪く聞くと、何故か黙る…


「…?…雅楽?」

「…ん?…あぁ、取材だった」

「そ?」



レコーディングの日に取材ってのも珍しい事ではない

雅楽たちの音はすでに収録済みだったし…

雅楽の背中から腕をまわし自分の頬を彼の背中にくっつけた



「…」



何も言わずに私を引きよせ抱きしめてくれた雅楽

この胸に広がる温かさは…愛情が溢れているんだと実感していた

雅楽が何に悩み、何を不安に思っていたかなんて

私にわかるはずがなかった

大人ぶった、ただの子供だったから…

雅楽の腕に包まれて眠る事で私自身が満たされていく

雅楽もきっとそうなんだと信じて疑わなかった

次のレコーディングはきっと上手くいく…

そう思いながら、彼の腕の中で眠りについた






















程なくして花連が小さな寝息を立て始めた

初めて…コイツに嘘をついた

今日の仕事は、取材なんかじゃない

社長と佐藤からとある女性を紹介された

シークエンスミュージックからデビューする事が決まっている期待の新人

彼女をプロデュースしないかと、俺に話がきた

自分の事で精いっぱいなのに…

トロイメライがやっと軌道に乗ろうとしている時の単独の仕事が…これかよ

俺は、他の奴をどうこうできるなんて思ってない

瑠禾じゃあるまいし…

だけど

二人に見せられた彼女のライブ映像にくぎ付けになった

歌いだした時の存在感

抜群の声量

一度聞いたら忘れられない声

こんなシンガーを見た事がなかった

正直…花連とは、持って生まれたものが違うと…

なんで俺がプロデュースなんて話になったんだ

2人の話をよく覚えていない

そう…か…

瑠禾と花連にきっかけを作った俺だから次のステップに進めと言われたんだった

なぜか…

花連には話せなかった

いずれコイツの耳にも入る事だったら俺の口から直接話せばすむ事なのに…

俺は嫉妬をしているのかも

順調に仕事が入る花連に…

少し…痩せたよな…

そっと彼女の頬にかかった髪をかき上げてもグッスリと眠る花連はピクリとも動かない

それだけ全力で仕事してんだよな…

他人をプロデュースするなんて、考えた事もなかった

だったらこれから考えろと言われた

自分のために…

これからのために…

そして

トロイメライのために…






















「やれば?」

「はっ?」



瑠禾に話をすると、コイツには珍しく前向きな言葉に変な声が出た



「トロイメライのためになるんだったら、雅楽のためになるんなら…やればいい…」



瑠禾の後押しがあるのに、俺の気持ちがスッキリしない



「俺に出来ると思うか?」



自信がないのか…?

自信なんてあるわけがない

短気ですぐに投げやりになる

俺が矢内さんのように寛容な心を持っているとも思えない



「自分と矢内さんを比べてんの?」

「っ…!」



瑠禾に図星を指されて言葉が出ない



「雅楽は、雅楽なのに…」














瑠禾…

お前、今でもそう思うか?

いや、瑠禾はずっとそう思ってくれてんだろうな

照れくさくてもう聞けないけど

お前の言葉で俺は一歩踏み出してみようと思ったんだ

未知の世界に飛び込もうと…

音楽人として…




花連は…

まだ、俺の決意を知らなかったよな…











-06- end

2011.08.09

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