01
上辺だけの恋は虚しいとあなたは言う
こんなにもあなたを思っているのに…
こんなにも側にいるのに…
私の一目惚れだったのか…
彼の一目惚れだったのか…
どちらが先なんてどうでもいい
何かあった時、一番に私の事があなたの脳裏に浮かんでほしい
ただそれだけで、私はあなたの心の中にいるんだと安心できる
一緒にいる時間が全てではなくて
どれだけ同じ想いをしたかが大事…
私はそんな事もわからずに、あなたと同じ空間にいた
「作詞ってどうやってやるの?」
「テーマを決めるとやりやすいかもな…俺だって最初は出来なかった…」
同じ高校に通い、同じ軽音部に所属し…
私と雅楽は出逢った
兄の影響でバンドに興味は持ったものの、私には楽器を演奏するなんて出来なかった…
たまたま同じクラスになった花咲雅楽に誘われた軽音部
「お前の声を聞かせてくれよ…」
人前で…
まして、一人で歌うなんて
私にできる筈がなかった
それでも私は導かれるように、始めから歌う事を志していたかのように…
当たり前のように軽音部に居る
「…バカ…雅楽…」
座っている彼の後ろに回り込み、背中合わせに立つ
雅楽の顔を見ながら歌うなんてこの状態じゃ出来ない
〜♪
大きく深呼吸して…
彼の好きな曲を口ずさむ
たぶん…雅楽は、目を閉じて聞いてくれているはず…
放課後の二人しか居ない部室に響く私の声は、ちゃんと彼に届いているのかな…
ふと、聞こえたペンの走る音…
雅楽が詩を書いている
聞こえないフリをして、私は歌い続けた
私と彼だけの秘密の時間――…
なんだかんだ言って、私たちは3年間同じクラスで…
気がつけば雅楽と一緒にいる時間が増えていた
毎回選抜させる部内の選考にもいつも二人で受かっていた
選抜に選ばれると、文化祭や学校行事のある時は講堂でのステージが許される
私と雅楽、そして雅楽が誘って途中から入部してきた葉山瑠禾は部内選考の常連だった
「花蓮って、雅楽の事が好きなの…?」
彼の正直な性格がストレートな質問を私に投げかける
「…雅楽の顔も好みだし、彼のセンスは好きかな…男としても好きよ♪」
ふぅ〜んと、自分から聞いてきたのに興味なさそう…
雅楽のルックスは校内でも人気で、密かにファンクラブまである
何度、呼び出されたか…
雅楽と仲の良い葉山瑠禾にもファンクラブがある
この二人の音で歌える私は女子の恰好の的になっていた
だからなのか…
女の子同士って苦手…
屋上の私だけの秘密のスペースに逃げ込み、タバコに火を点ける
未成年だからダメ?
意味わかんない…
私にだってストレスはあるのに
年齢がいってないだけでダメなんだ
何もかもの自暴自棄になっていた私のたった一つの…抵抗だった
バカバカしい事なのかもしれない
でも、まだ18年しか生きてきてない私にとっては…その抵抗が全てだった
親の期待の大きかったお兄ちゃんが音楽の道に進み、毎日聞かされる親の愚痴にもうんざり…
雅楽のギターで歌うようになって、心のモヤモヤを吐き出した
だけど…
それでもまだ満たされていない部分に苛立ちを覚え、空に昇って行く煙りを見ながら虚しさという溜め息をついた
「お前、臭いぞ!」
匂いには気をつけていたのに雅楽に気づかれた…
タバコを吸った事…
「…ごめん、止めるから…もう吸わないから…嫌いにならないで…」
私に向けた背中に抱きつきたい衝動を抑え、彼の制服の裾を掴む
こちらを向かない雅楽の背中は、怒りに満ちている
怖くて…怖くて…
「…ごめ…雅楽…ごめんなさい…」
気がつけば、次から次へと涙が溢れ出し…
本気で怒る彼に…
私は恋に落ちていた
真っすぐな雅楽…
彼の瞳に映るのは、私だけであってほしい…
「…ったく…お前、何やってんだよ。危なっかしくて、目が離せねぇ…」
フワッと雅楽の香りに包まれたかと思うと、彼の腕にきつく抱きしめられていて…
「…雅楽…?」
問いかけても答えない彼の腕に僅かに力が篭る
安心できるその腕の中は永遠に私のものだと、揺るぎない決心を握りしめた
誰にも…渡さない…
彼を…
雅楽を…
それから彼は私の居場所になった
雅楽が微笑んでくれる
私に向けられた彼の笑顔は…私のもの…
あなたに触れる奇跡を独り占めに…
‐01‐end
2010.11.20
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