4 散り急ぐ蓮の如し



 バサリと鷹の"青"が主の腕に止まり羽を休める。

「お帰り、青」

 短い水色の髪をかきあげながら青波 祭は、中性的な顔に似合う蒼色の瞳を血溜まりのソレに向けた。
 死屍累々の山は蛇蝎楼『最奥の間』に延々と積まれてある。

 蛇蝎楼襲撃の少し前に部下の綯凜と潜入していた彼は一番の獲物である『蛇蝎楼の主』を捜してこの最奥の間にいた。
 
「…それにしてもこれはおかしいよねぇ」

 死体の山を見ながら愛用の鞭を取り出しビシィッと床に一振りする。死体の前で震えていた男が怯えて縮こまった。

「こんな小者ばっかだなんて、天下の蛇蝎楼が泣けるね」
「た……助けっ」
「骨の無い奴らだよ。ちゃんと大切なもんついてんのかな?」

 鞭が華麗に舞い小柄な男の腹に当たった。

「ぎゃぁっ! た、助けてくれっお願いだっ。どうか…どうかぁぁぁぁっ!!」

 泣き叫ぶ男に祭は溜め息混じりに鞭を引く。

「なら教えて貰おうか、最近蛇蝎楼で何が起こった?」

 鞭を指で弄りながら訊くと男は唾を飲み込み詳細を語った。

 蛇蝎楼には主の他に沢山の派閥があった。派閥の数だけ頭目が立ち、各々部下を多数所持して殺し合いをしている。頭の中には零騎隊の隊長達とも互角以上の強さを持つ者もいたという。
 だが零騎隊襲撃以前に、主と主だった派閥の頭目がある者によって惨殺された。

 誰もが畏怖するその者の名は『宵瑯』
 
 そして宵瑯は数多の実力者を引き連れ蛇蝎楼を去った――。

「……宵瑯、ね」

 男の話しを聞いた祭は懐から長太い針を取り出し男の心臓目掛けてそれを放った。

「ぐはっ!」
「事前調査で出てこなかったなんておかしい。これは裏で何かあるかもしれないな…」

 息の音を止めた男に目もくれず青の頭を撫でる。

「まるで手の平の上で躍らされているようだね」

 静かに血の海を見つめ、ふと不敵に笑った。

「上等っ」

 サラサラと携帯筆で道洩宛の報告書を書いてそれを畳み、青の足に括り付ける。

「青、道洩の所だよ。行ってこい!」

 飛び立つ青を見送り、鞭を持って元来た道を引き返す。
 確かな情報を得るために。



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