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昼ご飯にと入った店で、エースさんが四人がけを占領して皿を積み上げていた。相変わらずの食べっぷりに、他のお客さんが引いている。あ、寝た。

「店変えるか…」
「偶にはいいんじゃないですか?」
「…んなこと言って、後悔しても知らねェぞ」
「大丈夫です。食い逃げはさせません」
「そういう問題じゃねェ」

エースさんの向かいに並んで座って、適当に注文する。起きないなあ。あ、写真撮っとこ。

「ふふ」
「そんなに面白ェか?」
「見ます?」

写真のフォルダを開いて、今撮ったのから一枚ずつ左に送る。昨日の香辛料とか、真っ赤な海とか。甲板で大騒ぎしてる兄さんたちとか、酒飲んで顔真っ赤にしてるとことか。何かいつの間にか増えたなあ。こんなにいっぱい撮ったっけ。あ、これイゾウさんが稽古つけてるやつ。

「随分撮ったな」
「そうですね。こんなに撮ってたとは思ってなかったです」
「イズルの写真は?」
「ないですよ?わたしは撮る専門」
「ふーん…」

何か言いたげなイゾウさんに問い返す前に、エースさんが勢いよく顔を上げた。おはようございます。幾らなんでもびっくりするわ。

「お、何だ。イズにイゾウじゃねェか!何やってんだ?」
「お昼ご飯食べに来たら偶々エースさんがいたから相席しました」
「おう。ここの飯は美味いぞ」
「エースの美味いは当てにならねェけどな」
「あー、何でも美味いって言いそう」
「そんなこと、…あ?」

言いかけた言葉を放置して、首を傾げてまた咀嚼する。一個ずつやろうよ。そんなことないって言おうとしたんだろうけど。

「イゾウか?」
「さっきてめェで言ったんだろ」
「いや、そうなんだけどよ。どうしたんだ?結納か?」
「は?」
「…っく、はは、」

隣でイゾウさんが顔を伏せた。何笑ってんだ。種撒いたのイゾウさんだぞ、ちゃんと回収しろ。どっからどうしたら結納なんて出てくんのさ。両家のご両親どこ行った。わたしは兎も角、イゾウさんのご両親は。…ご両親は?

「エースさんて結納が何か知ってます?」
「何か飯食うんだろ?」
「…間違ってるとは言わないけど」
「間違ってんだろ。飯食うのは目的じゃねェ」

いやまあ、そうだけど。運ばれてきた料理が机に並んで、積まれた皿が捌ける。まだ食べるんだもんなあ。あ、それわたしの。

「なら何すんだ?」
「正式にちゃんと婚約しますよってお披露目する感じ…?ですかね…?」
「盃交わすみたいな感じか」
「盃?」
「あァ、似たようなもんだ」

へぇ。盃ってあれでしょ?やくざさんたちがやるような、何かそんな感じの。確かに海賊も似たようなもんだけど、そういう文化があるんだ。へぇ。わたし知らない。

「エースは元々船長だったからな」
「そうなんですか?」
「あァ。だから、うちに入る時に盃交わしたんだよ。イズルだけがやってないわけじゃねェ」

…何も言ってませんが。言ってないけど、ちょっと羨ましくなったのは認める。少し恥ずかしくて食べ物を突っ込んだ。確かに、わたしがいる時に入った人もいるけど、やってるの見たことない。

「イズとイゾウは結婚すんだろ?やったらいいじゃねェか」
「…イゾウさん的にはどうですか」
「親がいねェからあんまり意味がねェな」
「親?オヤジがいんだろ?」
「父さんもそうだけど、この場合は産みの親ですね。わたしの方は、…まあいませんし」
「おれの方はとうに死んでる。弟が一人いるが…そう簡単に会いに行けるもんでもねェしな」

へえ、そうなんだ。弟。イゾウさんお兄ちゃんなんだ。今更、何も知らないと思い知る。故郷のワノ国は確か鎖国をしてると言ってた。確かに、会いに行く難易度は他の島の比じゃないかもしれない。

「じゃあ、いつか弟さんに会いたいです」
「あ?」
「何の話だ?」
「ご褒美の話、」

突然の爆発と轟音に、言葉の先が掻き消えた。勘弁してよ。今良いとこだったのに。



***

「うわっ、何?爆発?」
「穏やかじゃねェなァ。お前らナース連中探してこい。リリーたちが街に下りてる筈だ。お前は船戻って道具持ってこい」
「了解っす!」「わかった」
「…ったく、うちの縄張りで喧嘩吹っ掛けてくんのはどこのどいつだ?」




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