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目的の何とかという香辛料は、この島に自生する特殊な植物らしい。名前は忘れた。何かやたらと長くてややこしい名前だった。薄くて柔こい袋に小さくて細かい種が入ってて、この種が食べられるんだとか。つまり、下手に力を入れたら破ける。

「この何とか何ちゃらって普通に売ってないんですか?」
「ルスクカアヲミウ・バルーンペッパーな。店にあるやつは袋を破いた後のやつだから、風味が全然違ェんだよ」
「そうですか…」

大きな袋が、…少なくとも20はある。この辺り一帯取り尽くしたんじゃないだろうか。これがこの島に寄航する時の恒例だって言うんだから。いやはや、自然とは逞しい。

「それで勝敗は?どうすんの?」
「あー…、数えるか」
「サッチさんが?」
「その過程で破れたら元も子もありませんよ」
「何しれっとおれが数える前提になってんだよ」

そりゃあ、持ち掛けたのがサッチさんだったから?いいじゃん。わたしの勝ちで。イゾウさんに報告したところで何にも得しないでしょ。

「おれ一人で三人に匹敵するだけ集めたんだから、ここはおれの勝ちじゃねェの?」
「隊長が隊員と同等じゃ情けないじゃないですか。しかもわたしは初めてですよ?」
「でもゾノとルーカがいただろ?」
「初心者のフォローしながらなんて、一人でやるより大変だと思いますけど」
「…お前、そういうとこイゾウに似てきたよな」
「似てきたんじゃありません。元々です」

頑として譲らないわたしに、サッチさんがため息をついた。折れてくれる?折れてくれるよね?だってお兄ちゃんなんでしょ?妹のわがまま聞いてよ。

「あー、わかった。おれの負けでいい」
「ふふ、やった。ありがとうございます」
「ああ、おれは黙っててやるよ」
「…は?」

にやりと、サッチさんが口角を上げた。その言葉にふと思い立って、今すぐ、さっき言ったばかりの謝辞を撤回したくなる。おれは?おれ以外は?

「おれサッチのそーいうとこ嫌ーい」
「海賊なんてこんなもんだろ」
「一緒にしないでよ」
「待って待って待って。え?誰ですか、イゾウさんに余計なこと言おうとしてる人」

視線をサッチさんから外しても、誰一人として手は上がらない。代わりに、ぱっと視線を反らされた。おい。おい待てこら。

「何で!」
「そりゃあ、その方が面白ェからだろ?」
「わたしは面白くない!」
「イゾウは喜ぶと思うけどなァ」
「わたしは喜びません!」
「イズル」
「何ですか!」

勢いそのままゾノさんを振り返れば、苦笑いでわたしを見ていた。ゾノさんていっつもそう!いっつもサッチさんとかイゾウさんとか、すぐ隊長の肩持つんだから!

「あー、その…、今日イゾウ隊長の機嫌が悪くてな」
「…?そうでした?」
「そりゃあ、イズルの前では出さないよね。イゾウのわがままだもん」
「一緒に上陸したかったんだろ?その前に、イズがこっちに来ちまったけどな」

…何。それ。聞いてないけど。一緒に上陸って、今日買い出しでしょ?明日とかの方が良くない?…と、思ってたりするけど、そういう問題でもないのか。ないのか?

「だからおれたちの平穏の為に、な?」
「…わたしで機嫌取ろうとするのやめていただけません?」
「しょうがねェだろ。イズで機嫌悪くなってんだから」

いや、知らんし。イゾウさんも言えばいいのに。まあ、言われても手伝いに来たと思うけど。



***

「…イゾウ隊長、やっぱ機嫌悪いよな」
「機嫌悪いっつーか、落ち込んでるんじゃねェか?」
「折角帰ってきたのに、イズも何考えてんだか」
「諦めろ。鈍いのはいつも通りだ」
「ちったァ成長してるかと思ったんだがなァ…」
「おい。無駄話してんじゃねェよ」




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