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家族が帰ってきた。そんな理由があったら、宴になるのは必至だ。何かと理由をつけて、すぐ飲みたがる。それでも、その理由になれたことが嬉しくて擽ったい。

「ただいま戻りました。今後ともよろしくお願いします」
「おう、おかえり。何か食うか?」
「やったあ、サッチさんのご飯」
「何だよ、嬉しいこと言ってくれんじゃん」
「んー、何て言うんですかね。日頃から美味しいとは思ってましたけど、食べられなくなったら余計恋しくなっちゃって」
「おれが?」
「おれのご飯が」
「ははっ、相変わらずだなァ」

言いつつ、笑って皿に取り分けてくれるんだから優しい。もう、本当に。ご飯は絶対モビーが一番。

「ふふ、いただきます」
「好きなだけ食え」
「ありがとうございます」
「おっ、イズ!」
「あ、どうも。ただいま戻りました」
「おう!相変わらず色気ねェな!」
「ラクヨウさんも相変わらず、落ち着きないですね」
「がっはっは!そういうとこも変わんねェな!」
「お互い様では?」

がしっ、と肩に乗った腕が重い。体格差を考えろ体格差を。相変わらず無神経。でも憎めない辺りは絶妙だよなあ。そこだけは尊敬するわ。そこだけは。

「他の人に挨拶してくるんで、腕外してください」
「はあ?お前全員にする気か?」
「1,600は無理ですよ。せめて隊長さんくらいはと思って」
「別に次会った時とかでいいだろ」
「…まあ、忙しそうだったらやめますけど、おかえりって言われたら嬉しいじゃないですか」

だから言わせに行こうと思って。その隊長方を探して歩き回る間に、他の兄さんとも交流できてる。時々酌をねだられたりね。本当に。変わらない。良い意味で。

「イズ、強かになったな」
「ベイさんには敵いませんけど」
「ベイみたいになったらイゾウが泣くぞ」
「…それはちょっと見てみたいかも?」
「おう、頑張れ!そんでイゾウを泣かしてやれ!」
「ラクヨウさんに言われるとちょっとなあ」

あ、ジョズさん見っけ。見っけと言うか、空いてそう。ブレンハイムさんとか、見つけてることは見つけてんのよ。大きいから。何か盛り上がってたら様子見ってだけ。

「ジョズさん、ただいま戻りました」
「…イズ、元気か」
「はい。…あ、食べながらでごめんなさいなんですけど、またよろしくお願いします」
「いや、こっちこそよろしく頼む。…マルコに書類を突き返されるんでな」
「ふふ、お役に立てるなら何よりです」
「助かる」

そっかあ。字は上手くならなかったかあ。いや、まあ、わたしが来る前からそうなんだろうから、こんな数ヶ月で変わらんよな。それこそ、写経でもしないと。

「イズル!何やってんの?」
「あ、ハルタさん。ただいま戻りました」

ありゃ、出向いてもらっちゃった。相変わらず楽しそうね。向こうで屍になってる兄さん方はあなたの仕業ですか隊長。

「おかえり。ベイの所はどうだった?」
「面白かったですよ。色々教えてもらいました」
「色々、ねえ?うちとどっちが良かった?」
「…ベイさんの所の方が楽しかったら、わたしは帰ってきてないですよ」
「へェ、言うじゃん。後でベイに言っとくね?」
「どうぞー。その話してますもん」
「は?何で?」
「え、ベイさんにこのままうちの船に乗るかい?って言われて、」

いや、断ったって話だよ。怒んないでよ。そもそもベイさんが本気だったかなんて知らないし。何でハルタさんが怒るのよ。イゾウさんは、何となく想像できるけど。

「…マルコに報告しとく」
「はい?」
「あ、イゾウにも言っとくね」
「それはやめて」
「…本当はさ、うちの船が先に着いてる筈だったんだよ」
「そうなんですか?」
「ベイが嘘ついてなかったらね」
「はい?」

膨れっ面になったハルタさんからの説明は諦めて、ジョズさんを見上げる。あんまり表情変わんない人だけど、ちょっと顰めっ面。どうした。

「…ベイから聞いてた到着予定日は一週間ずれていた」
「あー、なるほどです」

本当なら、モビーが着いて数日後にわたしが着く予定だったんだ。一週間ずれてたら、まあ、急いだって難しいよね。完全に遊ばれてるじゃないか。

「むかつく…何かあっても助けに行ってやらない」
「そんなことしたらハルタさんが後悔しますよ」
「…随分と偉そうな口聞くじゃん」
「あー、ベイさんに似てきちゃいましたかねえ」
「やめてよ。イズルはイズルのままがいい」
「ふふ、はあい」

イズルはイズルのままがいい、なんて。嬉しいなあ。たぶん、そういうつもりの言葉ではないんだけど。それでも。

「…何笑ってんのさ」
「いえ?モビーは楽しいなあと思って」
「当たり前でしょ。ここをどこだと思ってんの?」

世界一の、父さんの船ですね。



***

「なァ、サッチ」
「あ?お前は自分で取れよ」
「…お前、イゾウのこと言えねェよな」
「うるせェ。可愛い妹が帰ってきたんだから、別にいいだろ」
「あ、それな。イズ可愛くなったよな」
「は?」
「何だろうな、あれ。色気はねェんだけどな」
「…お前、本当に馬鹿だな。まじで胸しか見てねェんだろ」
「何言ってんだ!尻も見てる!」
「もっと馬鹿だな」
「男としてそこは譲れねェ!」
「わかんなくはねェけどよ…」




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