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やっぱり、狭かったかなあ。でも、いつもの、と言うか、イゾウさんのベッドとそう変わりはないと思うんだけど。
何となく目を覚ませば、いつもよりきつく抱き寄せる腕。これで寝てるんだから参る。寝顔もきれいですねこの野郎。起こしたくないなあ。この人、わたしが身動ぐだけで覚醒しそうで。

「どうした?」
「…起きてたんですか」
「そんだけまじまじと見られりゃな」

ぱちりと目を開けて、笑って、抱き締めて。髪を梳く手が心地好い。何か、気恥ずかしさよりも勝るなあ。何だろう。

「…あの、疲れてません?」
「ふ…、イズルが聞くのか」
「えっ、だって、わたしだったら絶対筋肉痛になる」
「おれはそこまで柔じゃねェよ」

はえー。流石。ばきばきの体は伊達じゃないですね。その体に擦り寄って、目を閉じる。また眠たくなってきた。温かいんだもん。

「…イズルは平気か?」
「ん。大丈夫です」

眠たいだけです。あとは、ちょっと喉が渇いたくらい。でも、今この腕から出ていくのは惜しい。

「…つかぬことをお伺いしますが」
「ん?」
「その、いつから我慢してたんですか?」
「最初から」
「最初から?」
「抱きたくねェ女と付き合うほど枯れてねェ」

あ、はい。どうも。随分な物好きだったみたいで。そんでもって、随分我慢させてたみたいで。ごめんなさい?

「余所のお姉さんと、とか、なかったんですか?」
「ねェよ。他の女で発散したって意味ねェだろ」
「そういうもんですか」
「お前、おれを何だと思ってんだ」

呆れたような声が聞こえる。ようにじゃなくて、呆れられている。だって、男の人ってそういうもんかと。こう、心と欲は別物、みたいな?女の子でもいるけどね。

「イズルとがいいんだよ。想像よりずっと可愛かった」
「は?えっ、あの、」

聞き捨てたい言葉を問う声は、押し潰されて出てこなかった。想像よりって、想像よりって想像したの?何で?待って?何を?



***

「あら、まだ挨拶してないの?」
「出会してねェからな」
「随分な言い種ね。あんまり不義理すると、怒られるわよ?」
「別に無視してるわけじゃねェよい」
「…それ、屁理屈って言うのよ?探して連れて来てあげましょうか」
「遠慮するよい」
「イズにも会わせたいのよねえ。朝ごはん、ちゃんと食べたかしら」
「おれに聞くな」




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