氷雪の金狼 | ナノ

▽ プロローグ01 金狼の帰還


これはヴァルハラント国防軍のエース、『氷雪の金狼』と呼ばれた軍人ゼクスの物語。



人差し指が暖かいものに包まれるのを感じ、ゼクスはそっと目を覚ました。
気がつくとゼクスは柔らかいベッドに身を委ねていた。
霞みがかった視界で認めたものは、見慣れた白い天井。

ゼクスが目覚めたと同時に、すぐ側で何か声が聞こえてくる。

「ゼクス、ゼクスっ……!」

聞き覚えのある女性の声…自分の名を呼ぶ女性の声。

霞みがかった視界が晴れるのに数秒の時間を要した。
晴れた視界に映ったのは、自分の顔を覗き込む妻アルーティア。
そして彼女の腕の中には、まだ生まれて数週間経たぬであろう赤子が抱かれていた。
赤ん坊は母親に抱かれたままその手を伸ばして、ゼクスの人差し指をぎゅっと握りしめていた。
先程感じた指の温もりのは、赤ん坊の手に包まれていたからだった。

ゼクスは掴まれていない方の手を無意識に赤子の頬に伸ばして、その柔肌をそっと撫でる。

「…アルーティア…生まれた、のか…」
目覚めより絞り出した第一声は少し掠れていた。

「二週間ちょっと前に生まれたのよ。…あなたが眠っている間にね」

彼の問いに妻アルーティアは、青い目に嬉し涙を浮かべるが気丈に答えてみせる。

妻の言葉に、朧気だった記憶がはっきりと蘇ってくる。
…そしてゼクスは自らの置かれている状況が理解できた。
自分は戦いで重症を負い…数日間、ここヴァルハラント連邦共和国の軍専属病院にて生死をさ迷っていたのだ。
そして戦地に旅立つ頃に臨月を迎えていた妻が、我が子を生んだのだ。

ゼクスは身体に鈍い痛みを感じながらも、ベッドの上で上体を起こし妻と我が子に向き直る。

「いっ……」

「だっ、駄目よ。まだ傷が塞がりきってないんだから起きちゃ…」

ゼクスを案じるアルーティアだが、彼はその静止に応えなかった。

「第2次ビフレスト境界会戦の時と比べたら…大したことない」

「どっちも死にかけたじゃないのっ…!もう、大したことないじゃないわよ」

アルーティアは「心配してたんだから」と頬をふくらませる。

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