さて、皆さま明けましておめでとうございます。

というわけで、我ら真選組は今江戸でも有名な神社に来ています。

何しに?もちろん、初詣…と言いたいところなんだけど、残念ながらそうではない。神社の警護に来ているのだ。

副長曰く、「こういう皆がお祭り気分に浸っている時に、どさくさに紛れてテロだのなんだのを企てる奴等がいるかもしれない」とのこと。

まぁ、言われてみればその説明にも十分納得がいく。こんなに大勢の人が一箇所に集まる機会なんて限られてるしね。

でも、果たしてこのお正月という平和の塊のような日にそんな恐ろしい事を考えてるやつがいるのだろうか。だって見てみなよ周りを。みーんな幸せそうな顔して歩いてるよ?

いくらなんでもこんな年に一度のビッグイベントの時くらい、穏健派の桂はもとより、過激派の高杉だってきっと鬼兵隊で新年会でもしてるって。みんな思い思いにお正月を満喫してるって。


「そういう油断がいけねーんだよ」

「げ、副長。ていうか、何で私の考えが分かるんですか?」


私が頭の中で一人論議を繰り広げていると、ふいに隣から副長の声が。


「全部その間抜け面に書いてあったんだよ。まぁ、穏健派の奴らはともかく、過激派の奴らがこんな絶好の機会を簡単に逃すわけねーだろ」

「えー、考えすぎじゃないですか?」

「いや、供えあれば憂いなしってことだ。大体、ここ(真選組)には危機感を持ってる奴が少なすぎる」


まぁ、上が上だしな。そうため息混じりに言う土方さんの視線の先には、ニコニコと楽しそうに隊士たちと喋っている近藤さんの姿。

そしてそのすぐ近くには正月早々ミントンに勤しむ山崎さんの姿が…あ。


「副長副長、あっちで山崎さんがミントンしてますよ」

「何だと…?おいコラ山崎ィィ!!正月早々ミントンなんかしてんじゃねェェェ!!そして場所も考えろ!!!」

「ぎ、ぎゃぁぁぁ!!」


副長が怒鳴り声を上げるのと山崎さんの悲鳴が聞こえたのはほぼ同時だった。新年早々ご臨終です、山崎さん。

そして私が副長たちの方をボーっと眺めていると、後ろからトントンと誰かに肩を叩かれた。


「?あ、沖田さん」

「よう。随分平和ボケした顔だねィ」

「そりゃ平和ボケもしますよ。だってお正月ってだけて心が和みませんか?」


何てったって日本中を巻き込んだお祭りみたいなものだし、美味しいものはいっぱいあるし、冬といえばこたつにみかんだし。

ああ、そう考えたら何だか眠くなってきたな。


「あーあ、こんな所に突っ立ってるだけなら早く屯所に帰って昼寝でもしたいなぁ」


言葉と同時にググっと伸びをすれば、そういえば、と沖田さんは私の耳に寄って言葉を続けた。


「あっちの参道に出店が出てるらしいんでさァ。暇つぶしにでも一緒に行きやせんか?」

「え、本当ですか?」

「本当本当。さ、土方コノヤローが戻ってくる前に行きやしょう」

「はい!」


沖田さんの悪魔の囁きを聞き、土方さんが近くにいないことを確認して私たちはその場をこっそり離れた。







「うわぁー…相変わらず凄い人ですね」

「正月はどこに行ってもこんなもんだろ」


そう言う私たちの前にはとにかく人人人。この人数が一人残らず初詣に来たものだと考えると何となく恐ろしい気もするけど…。

何だか活気があってとても楽しそうだと思った。やっぱりお正月はこうでなくちゃね。


「さーて、どこから周ろうか――」

「てめェらここにいたのか…」

「げ」

「ふ、副長…」


私がワクワクしながら通りを見渡していると、後ろから地を這うような声が…。恐る恐る振り返ってみると、案の定そこには副長の姿。つーか、見つかるの早くね?



「こんにちは土方さん。そしてさようなら」

「おい待てコラ。今更逃げるなんざ無謀なこと考えるんじゃねーぞ」

「土方さん、俺は一切悪くありやせんぜ。この女がどうしてもっていうから連れ出してきてやったんでさァ」

「ち、違いますよ!!大体誘ってきたのはあんたでしょうがァァ!!」

「どっちも同罪だ」


そう土方さんは私たちを見ながらキッパリと言い放った。あーあ、少しくらい私もお正月を楽しみたかったのにな。

こんな日くらい土方さんも鬼ではなく仏になってはくれないだろうか。などと、現在進行形で説教をされながらもほぼ実現不可能な願望を思い浮かべていると、ふいに視界に小さく‘おみくじ’の4文字か入った。


「あ、沖田さん、おみくじ!おみくじ引きましょう!」

「お、いいねィ」

「おいてめーら、こんだけ言ってまだ学習しねェか。今は仕事中だ――」

「土方さんはノリが悪くていけねーや」

「ノリも何も、だから仕事中だって言ってんだろ」

「それともあれですかィ?自分の運勢を目の当たりにするのが怖いんですかィ?」

「上等だァァ!!おみくじでも何でも引いてやるわァァ!!」

「…はぁ」


土方さんがそう高らかに宣言した瞬間、沖田さんがニヤリとほくそ笑むのが視界に入った。全く、どこまでのせられやすいんだこの人は…。私は土方さんにばれないように小さくため息を零した。まぁ、提案したのは私だけど。






「うわー、吉って…何か微妙…」


それぞれがくじを引き、真っ先に私が紙を広げてみると結果は吉。まぁ、なんともリアクションの取りにくい…。


「まるで山崎みたいでさァ」

「ちょっと!山崎さんに失礼でしょうが!!そんな沖田さんは何だったんですか?」

「俺ですかィ?俺は…」


ちょっと横から覗いてみると、


「…うわー、大吉?!沖田さんやりましたね!!」

「俺ぐらいのレベルになると神様も味方してくれるようになるんでさァ」

「はっ!年の初めから大吉たァ、今ので1年分の運を使い果たしちまったんじゃねーか?」


沖田さんが引いたくじには大吉と書いてあった。本当、この人はどこまで運がいいんだろう。羨ましいよ、そのどや顔が腹立つけど。

そして土方さんはここぞとばかりに沖田さんのことを鼻で笑っている。さっきといい今といい、本当いい年こいて大人気ないな。


「で、副長は?」

「俺は…」


カサカサと静かに紙を広げていくと、そこに書いてあった文字を見て土方さんは一瞬にして固まってしまった。若干手がプルプル震えているようだけど…。


「…副長?」


呼びかけても反応が無いので、私と沖田さんで横からひょいとのぞいてみた。すると、


「だ、大凶…」

「あらら。大凶を引き当てるなんざ、新年早々縁起の悪い男でさァ」


そこにはまさかまさかの大凶の2文字。おいおい大凶って…、運が良すぎるでしょ。ある意味。











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