恋焦がれて見た夢1
空気が冷たく澄んだ夜。
「何してるんだ、沙希。」
「正臣。」
金髪の髪を夜風に吹かせ、正臣は窓から夜空を見上げる小さな背中を後ろから包み込んだ。
沙希と呼ばれた少女はその腕に触れニコリと微笑んでみせた。
そして空を指差し、月を見ていたのだと言う。
そこで正臣は初めて空を見上げる。
今日は何とも見事な三日月だった。
「綺麗だな。」
それは彼女のことか、月のことか。
沙希は気に留めることもなく言葉を紡ぐ。
「月を見てるとお店にいた時を思い出すの。」
「沙希…。」
沙希は先日、隣に居る正臣に身請けされた吉原の遊女だった。
花魁まではいかなかったため、数千両などという莫大な金額ではなかったがそれでも庶民にしてはとても手が出せない額には違いなかった。
しかし正臣はこの周辺では知らぬ者はいないほどの富豪であった。
何度か沙希のいる遊郭に通ううちに心惹かれていったのだという。
それは沙希も同じであった。
こんな風に想い合っている同士が結ばれるということは滅多にない。
多くの場合が身分違いにより引き離されていくのだ。
それに身請けされるまでに様々な経験をしたであろう。
正臣はそれを思い沙希の頭を優しく撫でる。
「ツラい思い出じゃないの、私がお仕えしてた人のこと。」
沙希が昔の、正臣と出会う前の話はほとんど聞いたことがなかった。
それに聞くことも出来ないでいたのだ。
静かな夜、眠るにはまだ早い刻だったこともあり正臣は続きを促してみた。
すると沙希はゆっくりと話し始めた。
「あのね、私が禿(かむろ)としてお仕えしていた花魁の話なんだけど……。」
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