隠れ上手なお前


雨が降り、暗い日が続いたかと思うと突然暑い日が続き
それでいて今日は涼しげな風が吹いている。
そんな風に吹かれて、景時の屋敷の廊下で寝転がっていると愛しい姫君の顔が視界に映った。
俺を確認したかのように大きな瞳がニッコリと微笑む。

「お昼寝?ヒノエ君がのんびりしているだなんて珍しいね」

寝転がっていた体勢を直して髪をクシャリとかきあげる。

「休息をとる事も大事だからね。そう言う姫君はどうしたんだい?」

「ヒノエ君に会いにきた・・・かな」

たじろぎつつも、目の前の神子姫様は照れた笑みを見せて言った。
いつもは俺から一方的に言っているものだから、たまにこういう事を言われると気が狂ってしまう。
もちろん嫌な意味ではない。
不意打ちをつかれて、一瞬どう言葉を返していいものかと悩んでしまうのだ。
頭の中が真っ白になる―・・・

「へぇ、嬉しい事言ってくれるじゃん」

俺はいつもと変わらないそぶりを見せる。
表情に出して感情を剥き出しにするわけにはいかないだろう?

「少し話したい事があって」

「いいよ。姫君の言う事ならなんでも聞いてあげるよ」

たとえ俺ではない別の奴への恋心を打ち解けられてもね。
それとも、期待しても良いのかい・・・?
そう思いながら望美の口から出る言葉を待っていると、背後から1人分の足音が近づいてくる。
邪魔が入ったか。

「ヒノエ、ここにいましたか」

弁慶は黒い衣から覗かせる顔で俺を確認してから望美へと向けらて微笑む。

「なんだよ。相変わらず人の恋路を邪魔するのが上手いな。わざとかい?」

横に立つ弁慶を見上げて言うと、弁慶は手を口元に持っていき人前でよく見せる笑みを浮かべた。

「嫌だな。たまたまですよ」

この笑みの裏に別の意味を含んでいる事は、血が繋がっているからかよく分かる。
とことん性格の悪い男だ。

「ふーん。で、なんだよ。俺と望美の邪魔をしたんだからそれ相応の用なんだろうね?」

「ヒ、ヒノエ君!・・・私の事は気にしないでください。大事なお話だったら悪いですし」

姫君は本当に優しいね。
俺だったら何よりもお前を優先にするよ。
だから公平無私なその心が羨ましく思い、惹かれていく。

「俺は望美との話のほうが大事だけどね」

「戦略を立てることよりもですか?」

流石にこれには言葉を返せなかった。
熊野の別当として、これだけは避ける事はできない。

「しょうがないねぇ・・・待ってなよ。直に戻ってくるから」

「ここにいるよ」と言う望美に軽くウインクをし、背を向けてその場を立ち去った。

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