「日が沈んでしまったな・・・」

全ての話し合いが終わった頃には夕日が沈み星が空で輝きだしていた。
部屋を出てしばらく、その空を眺めていると九郎、景時が場を立ち去り、続いて出てきた弁慶が俺と並ぶ。


「望美さんとの約束があるんでしょう?早く行ってあげたらどうです」

「あんたに言われなくてもわかってるよ」

視線を変えずに言うと、クスクスと笑う声が聞こえてくる。

「それは、申し訳ありません」

とは言っても、これだけ時間が経っていたらいるわけ・・・
そう思いつつ、別れた場所に行ってみて俺は目を見を疑った。

「・・・・・・」

望美は廊下に横たわって静かに寝息を立てていた。
俺の言葉を信じてずっと待っていたのだろうか。
夜になると冷え込むというのに、それに――

「いくらなんでも無防備すぎるだろ」

自分の上着を脱ぎ、それを望美の肩にかけてやる。
神聖な体を風邪ひかせるわけにはいかない・・・だろ?
起こさないように望美の隣に静かに座る。

「ヒノエ・・くん・・・」

寝返りをうちながら可愛い寝言を言う望美に微笑みで返事を返す。
しばらく長い髪を指先に絡めて遊んでいると望美は瞼をピクリと動かせて眩しそうに目をゆっくりと開ける。
なんでそんなに眩しそうにしているのかと思えば・・・あぁ、今宵は月が綺麗なんだね。
白い光が丸い形を作り、周りの星々に惜しまないほどに暗い闇を照らしあてている。

「ん・・・」

「おめざめかい?」

俺を視界に映した望美は、目を丸くして時間が止まったかのように動かなくなった。
自分が何処にいるのだろうかと周りをキョロキョロ見渡して考える姿が可愛くて小さく笑う。
いくら白龍に神子と言っても、普通の女となにも変わらない。もっと、普段は見せないお前の顔を見たくなる。

「ヒヒヒノエ君!!!わ、私寝てたの!?」

状況を理解した望美は、頬を赤くして起き上がる。

「おかげで可愛い寝顔を見れたよ」

「起こしてくれても良かったのに」

「あまりにも気持ち良さそうに寝てたものだからね」

俺に返そうとする上着をまだ着ているように言い、素直に羽織って恥ずかしそうにはにかむ望美の顔。
そんな可愛い顔をされたら、堪えている理性を堪えきれなくなるだろ?
本当は抱きしめたいところだけど、今はこれだけ・・・
望美の頭に手を置いてクシャリと優しく撫でて、長い髪に指を絡めて通す。

「ヤローばっかりなんだからもう少し用心しなよ。姫君の寝顔を見るのは俺だけで十分」

「・・・もう。説得力がまるでないよ」

「ふふっ、それで俺に話があるんだろ?」

遊ばせていた手を髪から離し、気になっていた事を話す。

「あ・・・えっと、それは」

望美は出かけた言葉を止めて、困った顔を見せて視線を俺から反らす。

「?」

「今日は夜遅いし、また今度ね!」

全く理由になっていない事を言い残し、風の様に去って行く。
俺は捕まえ損ねた手をキュッと握り、立ち去る背中を見えなくなるまで見ていた。
月の光に照らされた姿がそのまま俺の知らないところに帰ってしまわないように。

「じらされるのも嫌いじゃないよ」

上着を取りに行くついでにでも聞き出そうかな。

空を見上げると、月は雲で隠れそうだった。
その月が隠れないようにいつか捕まえてあげるよ。

俺の腕の中でね・・・

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