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2:その先にあるもの


 アイツはいつもそうだった。何年も歳を重ねても、どんなに身の回りの環境が大きく変わろうとも、アイツの笑顔も性格は何一つ変わらない。
 小さな頃から一緒のアイツは、オレにとっては大事な存在で、血の繋がっていない妹というか姉というか……まぁ、そんな感じ。
 ガキの頃は、オレや他の男と混ざって泥まみれになって遊んだり、そのへんにいる虫を捕まえたりしていた。
 女の癖に平気で服を汚したり、転んで膝を擦り剥いてもケロッとした顔で遊ぶ奴で、そんな自由奔放な所が気の合う部分なのかも知れない。
 
 オレ達の出会いは、別に珍しくもないご近所さん同士だった。
 母さんがまだ生きていた頃、アイツのお母さんと仲が良くて、その流れでよく顔を合わせた事がきっかけだ。
 ガキ時はちょっと人見知りをして見知らぬ場所にはビクッちまうタイプだったけど、アイツはそんなオレに構わずグイグイと近づいた。
 小さな体には似つかわないぐらいに力が強くて、よくオレの手を引っ張ってはあっちこっちへと『小さな冒険』という奴に付き合わされていた。
 そんな事を繰り返していたからか、オレはいつの間にか人見知りも見知らぬ場所への恐怖も結構克服していた。今思い出せば、アイツには結構感謝しなきゃいけない。

 ……だけど、最近自分がおかしいんだ。
 ずっと家族に近い存在で、今まで思っていた事なんて全部伝えられていたのに、なぜかそれができなくなっちまった。
 母さんが死んだ悲しみも、父親の事を信用できなくなった事も、気の合う仲間を見つけた喜びも、そいつらに裏切られた悔しさも。本当に心の底から尊敬できる男ができた時も。
 オレは全部全部、アイツに伝えることができた。アイツはその度に熱心に聞いてくれたし、時としては自分のように喜び悲しみ怒りもしてくれた。
 ……ギャングという裏社会とは真逆に、明るい世界を日々生活しているアイツがどこか眩しく感じているのだろうか。
 表社会から道を外れたオレなのに、なんだかんだでアイツはオレの事を気にかけてくれる。
 それなのに、オレはアイツに『置いていかないで欲しい。ずっと傍に居て欲しい。またガキの頃みたいに手を繋いで欲しい。』って、泣き縋り付いてしまいたくなるほど、うざったく女々しい気持ちになるんだ。
 昔だったらこんな情けない事さえ言えたのに、本当にどうしちまったんだろう。
 

「……ナラ……ナランチャ! 人の話聞いてるの?」
「…………えっ? 悪い、何の話してた?」
 やばい、やばい。思わず考え込んじまった。案の定"もぉ〜ッ!"と、怒らせてしまったようだ。
 せっかく久しぶりの休みで、ゆっくり話せる時間を作ろうと誘ったのに、これじゃあ台無しじゃあないか。
「最近……忙しい? 疲れ溜まってるんじゃないのぉ〜? せっかくの休みなんだから、私と会わずにしっかり体休めたほうがいいよ」
「なッ……! オッ、オレはすぐ疲れるほどのオッサンじゃねーよッ! そんなの……気にするなって」
 気を使わせるつもりなんてなかったのに……と、ちゃんと話を聞いていなかった事に自己嫌悪する。
 しっかりしろ!と言い聞かすように、頭を左右にブンブンと振り、改めて目の前に座る幼馴染の顔を見る。
 ……ん?自分の気のせいだろうか。よく見知った顔は、いつもと違って見える気がする。なんかこう、キラキラ〜パチパチというか……。
「なーに? ジロジロ顔見てさ……あっ、もしかして気がついたの? 今日は新しく買ったコスメを使ったんだ〜」
 ニンマリと笑う幼馴染の顔を見て、オレは一瞬だけ頭の中が真っ白になり、途端に顔に熱が集まるのを感じた。
「…………」
 喉に何かが詰まったかのように言葉は出てこなかったが、オレの心臓はうるさいぐらいに高鳴っている。そして嫌というほどに思い知らされたのだ。
 ずっと家族のような存在だと思っていたのに、成長してキレイにめかし込んで笑っている幼馴染が女として『可愛い』と感じ、それと同時にずっと苦しまされていた違和感が、実は恋をしていたという事に。
 幼い頃の自由奔放な所を少し残しつつ、確実に女性にへと変わっていくコイツに、無意識に惹かれていたのだ。
「あぁ……よく……似合っている」
 その事実を受け入れることは、すんなりといけた。だが、オレは幼馴染の返しにうまい言葉が出てこない。
 そんなオレの心境など知りもしないのか、幼馴染は"でしょ〜?"と呑気に笑った。
 さて、この心情のその先はどうなることやら……。
 唐突に自覚したこいつの結果は、オレの頑張り次第かも知れないと、腹を括ったのだった。

 終

 【お題サイト『きみのとなりで』 自由奔放なあなたへ5題】

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