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5:白い首筋


 首元に顔を埋めれば、どことなく甘い匂いやタバコ独特の匂いとか、彼の体臭が混じった不思議な匂いが私の鼻腔を擽る。
「…………おい。いつまでそうやっているつもりだ? 別に嫌じゃないが、髪が擽ったくて仕方がねぇ」
 心置きなく堪能していれば、頭上からプロシュートの苦情が降ってくる。そんな事を言われても、私は彼のここが一番好きなのだ。
 白くてがっしりと太く逞しい。そして首の中心部には女にはないボコッと飛び出る喉仏が、声を発する度に動くのが愛おしい。頸動脈の場所に唇を添えれば、ドクドクと規則正しく脈打ち生命を感じる。だが、一番は首筋からダイレクトに香る体臭だ。一日一回は嗅ぎたくなってしまうほどの中毒性があった。
 返事をする代わりに、そっと唇を付けていた所を甘噛した。私を抱きとめていたプロシュートは、ビクリと身体を震わせて驚いたような間抜けな声を漏らす。
「っ、それは誘ってんのか? さっきまであんなにしたのに、まだ足りねぇってか」
「んー……? 違うよ、単純に跡付けたいなぁーって」
 腰を擦ってくる手に手を重ね、跡をつけてもいいかと彼に尋ねた。
「駄目だ。任務の支障になるだろ? 付けさせてやりたいのは山々だが……」
 わかってくれよと、どこか申し訳なさそうにするプロシュートが面白くなくて、私は駄目と言われたら余計にしたくなり、返事に反して首筋を吸った。
「おいおいおい。聞いて駄目だって答えたのにやるなんて、人の話聞いていたか? ……ったくよぉー、これじゃあ色仕掛けする仕事なんて入ったら面倒じゃねぇか」
「別にいいじゃない。普段はいつものスカーフで隠れる事ができるし、そういう仕事はメローネに回すか、裸になってもここだけ隠せばいいじゃない」
 最初は声調に怒りを含ませていたプロシュートだったが、私の言葉にどこかツボに入ったらしく肩を震わせ始めた。
「おっ、お前よぉ〜大の男が真っ裸なのに、首周りだけ死守していたら間抜けすぎるだろ〜。真っ裸で靴下履いているぐらいにヤバイ奴だって……くっ、あはははは!」
 とうとう我慢できなくなったようで、弾けたように笑い始めたプロシュートを見て、つられて私も笑ってしまう。自分で言っておいてなんだが、やる気満々の男とさぁやるぞってなった時に、首周りだけマフラーとかネクタイとかスカーフを巻いていたらドン引きするか笑うかどっちかだろう。そして、そんな男とはできないと気分も萎えてしまうだろう。
「ふふふ、どうやら私の勝ちのようだね。というわけで……大人しく跡つけさせてね」
 降参だと言わんばかりに、手を上げて寝っ転がるプロシュートに跨って、あまり痛くしないように口をつけたのだった。

 リビングで他の仲間達と会話しているプロシュートを見て、私は思わずニヤニヤしてしまう。あの白く太い首筋に巻かれたスカーフの下には、上手く隠れるように無数のキスマークと噛み跡がある事を知っているのは私とプロシュートだけ。
 二人だけの秘密事と、あの跡が消える頃にまた同じ場所につけてあげようという今からの楽しみに、私の胸はドキドキと高鳴っていたのだった。

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