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3:青白い顔


 起床して早々、私は洗面台に取り付けられた鏡を見て、自分の顔はこんなにも青白かったかと寝ぼけた頭で考えていた。
 青白いだけではなく、こんなにも厳つく赤い瞳をしていたかしら?と首を傾げて暫し考え込んだ。
「……おいっ。いつまでそこでボサッと突っ立ってるんだ? 出るんだからそこを退けよ」
「あ〜……なんだ。イルーゾォかぁ、おはよ」
 どうやら朝から無駄な頭脳体操をしたようだ。自分の顔がこんなにも血色悪くない事に安堵して、私は大あくびをしながら挨拶をする。
「よくもまぁ、仮にも恋人である男の前でそんなだらしのない姿でいられるよなぁ……」
 イルーゾォは鏡から半分身体を出すと、私の姿を見て呆れたような表情を浮かべる。そんな事を言っても、寝起きでまだ支度もしていないのだから仕方がないだろう。油断している所を不意打ちされるとは思ってもいなかったのだ。
「私の事は取り敢えずいいじゃない。……それよりも、イルーゾォ。貴方、酷い顔してる」
 ペタペタとイルーゾォの頬を触れば、照れくさいらしく青白かった顔はほんの少しだけ赤みを増した。
「任務続きで二徹だったんだ。……鏡の中で寝たかったが、それだとリゾットが先に報告書出せってうるさいからな。報告書渡しに行ってくるから、お前は部屋に戻ってろよ」
 イルーゾォはフラフラとした動作で鏡から外へと抜け出し、声調は弱々しくても相変わらず傲慢な振る舞いで私に指示を出してくる。
「私は今さっき起きたばっかりなんだけどっ!」
「別に良いじゃねーかよ。どうせ今日は休みなんだろ? オレが一日寝ている傍に居させてやる事を許可してやるぜ」
 私の抗議も虚しく、イルーゾォは力のない高笑いをしながらリビングへと行ってしまったのだった。
 ……本当に自分勝手な男だ。そんな男に惚れている自分もどうかと思うが、もう少しこう思いやりと言うか優しさという物を身に付けた方がいいじゃないのだろうか。そんな独りよがりにプリプリと怒りながら、結局私は彼の言うとおりに部屋に戻ったのだ。

「ふぅ〜……ようやく眠ることができるぜ。今日は何があろうが、ぜってぇ起きねぇぞ……」
 げっそりとした顔をして戻ってきたイルーゾォは、着替える気力さえないのか入ってくるなり早々とベッドにへと倒れ込んだ。
 先にベッドに横たわっていた私を抱き枕のようにしていたが、数秒もしないうちに寝てしまったのだった。私はそんなイルーゾォを見届けると、お腹が減ってしまったので朝食を取る為にこっそりと抜け出そうとするが、見事失敗してしまう。さすが暗殺者、熟睡だろうが気配でわかるのだろう。
 私はあまり肉のついていない青白い頬を撫でると、がっちりとしがみつかれた枕状態のまま、諦めて目を閉じたのであった。

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