■ ビン詰めの天使

「私と別れてほしい。もうあなたに振り回されるのはうんざりなの」
 
 その声は、自分の考えを曲げるつもりもないという意志があり、いつものようにおちゃらけて話を遮る事はさせないと言わんばかりにまっすぐに見つめくてる美しい瞳。大事な話があるからと呼び出され、なんとなく予想していた悪い予想が的中だった。確かに言われた通り、俺はいろいろと凜を振り回していた。自分の仕事を明かしていなかったから、自分の仕事を聞かれた時もはぐらかしていたしデートをドタキャンも度々あった。怒って詰め寄ってくる彼女を、まぁまぁと宥めて受け流していた。そんな俺に疲れてしまったのだろう。でも、俺は彼女を愛していなかったわけではない。柔らかい髪に柔らかい肌。身体も心も柔らかい彼女と過ごす時間はとても心地よかった。大いに勝手で自己中だが、彼女を離したくはない。
「しょ〜うがねぇ〜なぁ〜……でも、離すつもりはねぇーぜ」
「あなたがそう思っても、私は嫌なのよっ! ……さようなら」
 凜はそう言葉を吐き捨てて、背を向け立ち去ろうとした。
「リトル・フィート」
 すでに出していたスタンドで、なるべく傷つけないように凜の指先を少し切りつけた。
「痛っ……」
 突然指先に痛みが走って驚いたのだろう。早歩きで歩いてた足が止まった。ポケットから常に持ち歩いている瓶を取り出し、ゆっくりと凜の元に近づいた。

 小瓶の中で横たわり眠る凜はまるで天使みたいだった。陽に当たる金色の髪の毛が煌めいていて、小さな芸術品を眺めているようだ。これから目が覚めた凜はどんな反応を見せるのだろう。泣きわめくだろうか、怒りに任せ暴れるだろうか。それとも心を壊してただの人形になるのだろうか。まぁ、どんな反応にしろ凜は永遠に俺の傍から逃げ出させない。
「これからどこに行くのも一緒だぜ」
 小瓶を倒さないようにそっと口づけをしたのだった。





お題は、お題サイト『明日』さんからお借りしました


12月22日:ホルマジオのスタンド名を訂正しました。ご指摘いただきありがとうございました。

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