■ 唐突に自覚した恋。

 いつもと同じ朝を向かえ、いつもと変わらぬ日常を送る。本日も私は学校へ通学する前に、家が2つ隣りの幼馴染を向かえに行った。
「おっ、今日はちゃんと支度できてるんだね。偉い偉い」
「ガキ扱いするなよ。お前は毎日毎日、よく向かえに来るよなー」
 長い黒髪を6つのおさげに結んだイルーゾォは、今日も相変わらず目の下に隈があった。朝日を気怠そうに眩しがりながら、家の塀にもたれ掛かっていた。
「昨日もゲームやってたの? 隈がさらに真っ黒になっているけど、倒れないでよ?」
「うるせーな。ちゃんと朝起きられているんだから大丈夫だよ」
 もともとインドア派で趣味がゲームのイルーゾォは、身体は細めで色白い。最近始めたというオンラインゲームに嵌って、深夜までやっているんだとか。いつか体育の時間に倒れてしまわないか心配だった。
 そんな彼に小言を入れつつも、私達は足を進めたのであった。

 もうすぐ学校では体育祭があり、各種目の選手決めで私はリレーの選手に選ばれた。別に選手に選ばれるのはいいのだが、暫くの間は練習の為にいつもより早く学校へ登校しなくてはいけないのだ。授業が終わった放課後でもいいんじゃないかと思うのだが、部活動をする人に配慮しての時間帯だそうだ。
 長い一日の授業が終わると、帰宅部の私は真っ先に教室へ出る。中学の頃は運動部で、毎日が部活だったから高校はゆっくりしたいと思って帰宅部になった。下駄箱へ向かうと、やっぱり私と同じ帰宅部のイルーゾォも帰ろうとしているので自然に一緒に帰宅する形だ。
 男女が仲良く登下校しているなんて、付き合っているんじゃないの?ってよく聞かれるけど、幼馴染で家が近いから被るだけだよと説明すれば、相手はどこか納得はしていなさそうだが、それ以上は踏み入れた事は聞いてこない。私がここでイルーゾォに異性として気がある素振りをしてしまったら、変な噂がたって彼が嫌な思いをするだろう。
「あのさ。私、明日から体育祭の朝練で早く行かなきゃならないんだ」
「……あぁ、そういえばもうそんな時期だな」
 思い出したかのようにイルーゾォは返事をする。
「私が向かえに行かなくても、ちゃんと朝起きるんだよ」
「うるせぇな」
 イルーゾォはうざったそうにそっぽを向いたのであった。

 オレと凜は小学生からの幼馴染。二年生の時に親の仕事で引っ越してきて、家がすぐ近くで同じ学校へ通う同級生として知り合った。人見知りが激しいオレは、初めて会った時もろくに挨拶をせず親に咎められてもそっぽを向いていた。
 身体はモヤシ、激しい人見知りに運動は苦手なインドア派の転校生。正直言って、小学生時代は苦い思いしかない。酷いイジメはされなかったが、モヤシとからかわれ仲間はずれにされ学校へ行くのは苦痛だった。でも家に引き篭もるオレを無理やり向かえに来て、まるでおせっかい女房のようにあっちこっちにへとオレを外に引きずる凜には、ウザかった存在だったが高校まで行けた今になれば悪態を付いているが感謝はしている。
 次の日。昨夜も嵌っていたオンラインゲームをやり、朝は学校へ向かう準備をする。そして自宅の堀に身体を任せて待っていたが、凜が今日から体育祭の朝練で早く行くことを10分経ってから思い出し慌てて学校へと向かった。
 学校の門をくぐり昇降口へ行く途中、グランドではリレーの選手達がそれぞれバトン渡しの練習やタイミングを測っていたりと賑わっている。朝から元気な事で……と思っていると、グランドを走る凜と目が合った。あっちも気がついたのか何かを言うように口を動かすと、軽やかな走りで目の前を過ぎていった。
 オレはさっさと校内に入ればいいのに、足が全然動かなかった。さっき走っていた凜が朝日を浴びてキラキラと見えて、その姿に目を奪われていた。なんだか心臓もドキドキして、頬が熱い。連日の寝不足で身体に不調が出てしまったのだろうか。頭の中で凜の真剣な表情とかそういうのがこびりついて離れなくて、そのうち自分の意識が遠くなった気がした。

「もうっ! だから言ったじゃん。ゲームにはまるのもいいけど、ちゃんと寝ないと駄目だって」
「悪かったよ……」
 気がついたらオレは薬品臭い部屋で横になっていて、凜は少し泣きそうな顔でオレの顔を覗き込んでいた。話を聞けばオレはグランドの近くで急に倒れたようで、人が多かったこともありすぐに保健室に運ばれていた。先生からは寝不足は身体に大敵ですっ!とお叱りを受け、少し眠っていなさいとベッドで寝かされている。オレはさっき走っていた凜の事を思い出し、恥ずかしくて凜の顔をまともに見ることができなかった。
「……どうしてそんなにオレに構うんだよ。幼馴染だからっていう義務感からか?」
「バカっ! そんな義務感なんか私には持っていないよ」
 凜が怒るように大声を上げると、書類を作成している養護教諭に静かにしなさいと叱られた。
「……義務感よりも下心と言ったら……?」
「えっ……?」
 そんな冗談なと突っ込もうとしたが、頬を染めていつものオレみたいにそっぽを向く凜を見て、布団に潜ってなんとも言えないむず痒い感情に悶えるのだった。

[ prev / next ]
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -