■ 情愛のモルヒネ (モルヒネ:麻薬性鎮痛薬)

 愛とは時として、癒やしでもあり、幸福であり、苦しみでもあり、心の枷鎖でもあり、一度嵌ると底なしに溺れる麻薬でもある。とオレは思う。
 人を殺す日々、組織の犬として良いように使われるのに報われない日々。タバコ、酒、女と色々と手を出したが継続しているのは酒だけだった。タバコは匂いがつくし、女は下手に手を出すとハニートラップの場合が多くて迂闊な事ができないし、多忙のせいで振られたり散々だった。こう考えると自分には仕事だけしかないつまらない人間だと自分でも憐れだと思う。あの時も、組織の言うとおりに任務を執行した。原因は対象の男なのに、その家族も殺せという命令だ。家族の中にはまだ生後まもない赤子もいた。せっかく産まれた生命をこの手で殺した。命令だからという理由でやった自分にも、それを命じた組織にも腹立たしい気持ちで一杯だった。怒りで頭を沸騰させながらアジトに戻り、執務室で酒を煽った。弱いものでは効かなくなってしまって年々、アルコールの度数は高くなっていた。我ながらアル中一歩前だと思った。一瓶空にして、気怠さに任せて椅子に身を沈めていた。そんな時だった、凜が部屋に訪ねてきたのは。 
 正直凜の行動には酷く驚かせられた。抵抗してもよかったが、それをする気力はなかったし、今の自分を楽にしてくれるなら何だって良かった。それに実際に行為はとても良かった。普段は控えめな癖に時に見せる大胆で獰猛な行動をする彼女らしく、口調は丁寧なのに愛撫は酷く優しく荒々しかった。二度目の口づけをした時はオレの酔いも覚めてしまっていて、凜の身体の柔らかさとか、触れる体温とか、与えられている性感とかにすっかり夢中になっていた。これに嵌ったらいけないと頭の中で警鐘が鳴っていたが、『溺れてしまえばいい』という悪魔の囁きには勝てなかった。
 凜がオレに持っているのはきっと『情愛』だが、オレが凜に対する感情を『愛』と呼んでも良いのだろうか。甘い申し出を利用して、何度も何度も抱いてしまった彼女に『愛情』を伝えてもいいのだろうか。例え、気持ちを伝えて凜に拒まれてしまってもオレは諦めがつかないだろう。今のオレにとって凜はモルヒネその物だった。手放すつもりは毛頭ないと、疲れ果てて眠る凜を抱き寄せて夜を明かす。



お題は、お題サイト『sans fin』さんからお借りしました

※話は、R物の『地を這い苦しむ貴方と』のリーダー視点です。


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