■ アングレカム

「僕の可愛い子猫ちゃん。君の瞳は本当に綺麗だ。その瞳には僕だけを映しておいてほしい」
「もぉ〜私はいつもあなたしか見えてないわ」
 
 穏やかな昼下がり、大学の食堂で私たちは昼食をとった後に天気が良いから中庭に行こうよと誘ったのが間違いだった。あっちこっちカップルだらけで、真っ昼間にも関わらず聞いていて恥ずかしくなるような愛の言葉が嫌でも耳に入り、人前でも平気でキスをしていた。そんな情景に隣にいる私の恋人は非常に苛ついた様子で、私は選択ミスを痛感する。
 同い歳のギアッチョはイタリア人だけども、ああいう愛の言葉を言うのがとても苦手で『好き』とか『愛している』とか本人から聞いたのは、ほんの数回だ。下手すれば告白された時ぐらいだったかも。そして人前でベタベタするのも嫌っていて、見るのもゲンナリするっていうタイプ。イタリア人っていうよりも、私と同じ日本人タイプなのかも。私も人前でイチャイチャするのは苦手だが、たまには彼から甘い言葉を聞いてみたいなと密かに思っていたりする。
「あっ、あそこなら人少ないからあっちに言ってみようよ」
「……おう」
 
 校舎から少し歩いた場所に、ちょっとした芝生スペースに並んで腰を落とした。さっきまでの甘い空気から抜け出してようやく心地よい空気になった。陽射しは暖かく小鳥が気持ちよさそうに囀り、風は柔らかくそよいでいる。まるでここの空間だけ周りから切り取られたかのようだ。こうやってギアッチョと並んで座り、ぼんやりする時間は私は好きだった。
 もともとゲームが趣味同士で友人関係だったのが、顔を赤くしたギアッチョに声を震わせながら告白をされた時にすごく驚いた事が昨日のように思える。そんな事を思い出していると、私の肩が重くなり隣を見ればギアッチョは眠っていた。確か昨日はレポートを仕上げたせいで寝不足だとか言っていた気がする。顔に当たるフワフワの髪の毛をそっと撫でると、長い睫毛が震えた。触れる体温と陽射しが暖かくて、つい私までウトウトしてしまう。私まで寝てしまったら次の授業に遅刻だ。強い眠気と寝ていけないという意志が戦ったが、それも虚しく私の意識も落ちてしまった。

「おい……おい……凜」
 遠くから私を呼ぶギアッチョの声が聞こえた。夢の中にまでギアッチョが出てくるなんて嬉しいなぁ。
「うぅん……ギアッチョ。……好きだよ」
 夢だからと普段言えない言葉を言うと、ギアッチョの声が聞こえなくなった。なんだ、もう良い夢はお終いかとガッカリしていると、身体を揺さぶらされた気がした。だんだんと意識が浮かんできて、ゆっくり目を開けると光が眩しかった。ぼんやりと視界が開くと、目の前にギアッチョが居て彼の名前を言おうと口を開くと唇に何かが触れた。最初何かと思ったが、ギアッチョはどこか恥ずかしそうな表情をして私に顔を近づけてキスをした。
「…………ずっと隣にいてほしい」
 キスをされて嬉しくなって彼の名前を呼ぼうとしたら、小さな声で告白された時と一緒の言葉を言われて思わず驚いて固まってしまった。
 授業が始まりを知らせるチャイムが遠くから聞こえても、日が暮れるまで私たちは二人の時間を過ごしたのだった。



 
花言葉「いつまでも一緒」


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