Shadow Phantom | ナノ
 7:夜明けのトルタ・カプレーゼ

「なんだ、おやっさん。その坊やはどこから攫ってきたんだ?」
「……誘拐犯とか見損なった」
 ソファーに座る凜を見たチームメイト達は、こっちの心境も知らずに好き勝手に口を揃えた。注目が集まった凜は、オレを見て自己紹介した方がいいですか?と子供のように首を傾げて言ったので、顎でチームメイト達を指した。
「今日から、このチームに入ることになった凜・霧坂です。よろしくお願いします」
 さっきこの家に来た時と同じように、凜はソファーから立ち上がり綺麗な礼をした。新入りだと知った二人は少しの間沈黙し、それぞれ違う反応を見せた。
「子供でも男は嫌いよ……」
「ようやく人が入るのか、少しは仕事が楽になるな」
 一人は露骨に眉間に皺を寄せて嫌悪感を漂わせ、一人はお気楽に状況を受け入れていた。二人の様子からして、凜の教育係は決まったようなものだ。
「凜、こっちの女はトルタ。んで、こっちはアルバだ。……アルバは凜の教育係をやってくれ。お前少しだけ日本語を知ってるんだろ?」
「オレがするのか?」
「私は絶対嫌だからね」
 トルタは不愉快そうな顔をして、出かけてくると栗色の長い髪を靡かせながらアジトを出ていった。
 あいつの男嫌いは年齢関係ないのかよ〜とアルバは頭を掻きながらシチリア訛りで呑気に言うと、凜の前に立った。
「お前かなりチビだな。身体もほっそいし、飯ちゃんと食ってるのかよ? ……そんなんで任務できるのかぁ?」
「使えるようにするのが教育係の仕事だ」
 アルバはシチリア産まれにしては身長は軽く180センチを超えていて、さらにしっかり鍛えられていてガタイがいい。確かにアルバから見ればチビに見えても仕方がない。不安になる気持ちもわかるが、幹部からのお墨付きを貰っているのなら、それなりに使えるやつだと信じたい。
「…………ん? 凜、お前今年で20歳なのか!?」
 凜から手渡された書類のファイルに目を通していると、凜の個人情報について書かれていたページがあった。出身地やら血液型から本人の特技なんかの欄もあって、堅気の人間でも使う履歴書のようなものだ。そこに載っていた凜の生年月日には1973年10月28日と表記されていた。逆算すれば、今年で20で間違いないのだろう。こんな中学生みたいな容姿で成人年齢だった事に驚き問えば、凜はどこか複雑そうな顔をして肯定した。
 他には、日本語・英語・イタリア語が話せて中国語は読める事ができるのとか裕福層の育ちだとか、ピアノやバイオリンが一応できたりする事も書かれている。所謂生粋の坊っちゃん育ちというやつだ。
 確かに凜の雰囲気は、そのへんのチンピラ上がりには到底見えなかった。むしろ落ちている財布を交番に届けたり困っている老人を助けたりするお人好しの雰囲気が似合う。
「へぇ、じゃあオレの4つ下なんだな。チビのガキだとか思って悪かった……これからよろしくな凜」
「えぇ、こちらこそよろしくお願いします『anziano/先輩』」
 ニッコリと人の良さそうな笑顔を浮かべ、『先輩』と呼んだ凜に対して、アルバは不意を突かれたように目をパチパチと瞬かせた。
「『先輩』ねぇ……悪くない響きだなっ」
 その言葉がずいぶん気に入ったのか、アルバは少々乱暴に凜の頭をガシガシと撫でた。突然の事に驚いたのか凜は一瞬目を見開いたが、やがて猫のように目を細めてアルバの行為になすがままだった。
 アルバは一見威圧感があり怖そうに見えるが、本当は面倒見がよくて年下から頼られる事は嫌いではない性格をしていた。
 こいつが日本語を覚えようとしたきっかけが、観光しに来た日本人をナンパしたかったという不純な動機だったが、その勉強も無駄にはならないだろう(ちなみにナンパしようとしても、怖がられて逃げられてばっかりだったとか)。ストリートギャング上がりで教養など殆ど受けてはいないが、興味がある物には勉強熱心だったりする。
 アルバが凜の良い教育者になって成長してくれる事を、心の片隅でそっと祈るのだった。

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