Shadow Phantom | ナノ
 6:何とも言えないオレガノティー

『拷問チームに一人新入りを送る』
 
 今朝来たばっかりのメールに、拷問チームのリーダーは1つ溜息をついた。ようやく人を寄越したかっていう呆れと、使い物になれば少しは楽になれるなという安堵感があった。
 つい最近、組織の幹部が一人の一般人をスカウトしたという噂を耳にした。入団テストが終わったぐらいの頃合いを見て、『親衛隊』に人手を寄越せと抗議した甲斐があった。どういう人物かは、流石に幹部絡みがあるから調べるのを控えていたが、スカウトされるぐらいならきっと使い物にはなるだろう。40手前になった今じゃ、いろいろと身体にガタが出始めて若い頃みたいに無茶ができない。せめて拷問する事に集中ができれば、負担は全然違う。
 窓から見える海は、穏やかで実に静かだ。鬱陶しいサーファー達の姿も見えない。今日は悪くない一日になりそうだと思い、メンバーの二人にできれば本日の外出を控えるように伝えに向かった。

 時刻は午前10時を示していた。チームリーダーは一階リビングにあるソファーに座り、新聞に目を通していた。目につくのはだいたい芸能人のゴシップとかどこで火事があったとか、変死体が見つかったとかイタリアの経済の危機とか、変わり映えのない記事ばかりだ。やっぱり情報というのは実際に自分が調べないといけないなと、チームリーダーはフンフンと考える。
 そういえば、例の新入りとやらいつ来るのだろうか。メールに特別な事は書いていなかった。親衛隊の連中にでも聞いてみるかと、立ち上がったのと同時に外からバイクがアジトに近づいてくる音が聞こえた。今まで聞いたことのないバイクのエンジン音だ。これはもしかすると……。
 年季の入った古ぼけたチャイムが、家の中に響いた。チームリーダーは一呼吸をしてドアを開けた。
――目の前に立っていたのは、帽子を深く被った小柄な人物だった。
「……お前が、今日から入る新入りか?」
 その人物は声に出して返事はしなかったが、問いかけに頷き組織のバッチと何かのファイルを渡してきた。
「とりあえず……中に入れ」
 玄関先のやり取りを見られると色々と面倒だったので、中へと促したのだった。

「今日からこのチームに入る事になった、凜・霧坂です。よろしくお願いします」
 律儀に帽子を脱ぎ、挨拶をした新入りを見てオレは驚いた。
「東洋人か……?」 
 霧坂と名乗ったこの人物が、帽子を脱ぐまでは東洋人だとは認識ができなかった。  黄色おうしょくの肌、サラサラと艶のある黒い短髪、真っ黒な目に、小さく丸い鼻。そして一体いくつかは知らないが、ずいぶん幼い顔をしている。中学生って言われても信じてしまいそうだ。
 こんなに特徴的なやつの情報が耳に入ってこなかったのも、全て多忙のせいだと軽くボスを恨む。
「日本人です。…………えっと、貴方がチームのリーダーで合っています?」
「……拷問チームのリーダーをやっているオリガノだ」
 この日本人のガキが人殺しに長けているのだろうか? とりあえず人材を送っておこうという上層部の怠状から押し付けられたのでは、とオリガノは内心で頭を抱え込んだのだった。


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