午後の穏やかな陽射しが差し込むフレンの部屋に彼と彼女がいた。

光を取り込む窓から離れ、まるで闇を求めるように、部屋の奥に二人はいた。


「私、最近、おかしい、わ」

「どうしたんだい?」


紅玉のような赤い髪を撫でながら、フレンは尋ねた。

硝子玉がキョロキョロと辺りを見回した後で、フレンに向けられる。

右目は、透き通る金。

左目は、くすんだ茶色。

命を持たない、輝く瞳。


「私、魔導器、の、調子、悪い、みたい」


ハイネは心臓の位置に隠れた動力源に、服の上から触れた。


「魔導器が? 先日の『定期検診』では、リタは何も言ってなかったけど……」

「リタ、の、腕、は、確か。でも、ね」


ハイネはわずかにうつむいた。

彼女の髪がサラリと落ちる。

言葉を待つために、フレンは彼女の髪から手を離した。


「いつも、より、熱、が、集まって、いる」

「熱?」

「魔導器、が、熱い」


変化するはずのないハイネの顔に、不安や困惑が見えたような気がした。

魔導器の不調を訴えられても、フレンにはどうすることもできない。

自動人形であるハイネの魔導器は、特別なもので一般的なものより複雑だった。


「フレン、は、どう、思う?」


彼の手を取り、ハイネは自らの胸に導いた。

真っ白なシンプルな服越しに彼女に触れる。

ハイネは魔導器が持つ異常な熱を知ってもらいたかっただけだが、フレンはその行動に慌てた。


「ハイネ!」


叱るように名前を呼んでも、彼女は気にすることなく、首を傾げてもう一度尋ねた。


「どう? 熱い、でしょ。何故、か、さっき、より、熱い」

「ハイネ、女の子がこんなことしちゃダメだよ」


ハイネの手から逃れ、フレンの手は彼女の胸から離れる。

ハイネに他意はないのに、フレンは彼女を意識しすぎていた。


「女、の、子……。違う。私、は、人、じゃない。ただ、の、人形」


左右に頭を動かしながら、冷静に否定する。

フレンは、彼女のこういうところが嫌いだった。


「ハイネ」

「フレン、悲しい、顔、してる?」


ハイネの手がフレンの頬に触れる。

互いに、互いの体温を感じることができない。

フレンはそれが切なくて、ハイネは予想外の魔導器の反応に少なからず不安に似たものを感じていた。


「僕は、ハイネが好きだよ」

「私、も、好き」

「違う。そうじゃない」


人が利用するために作った人形。

ハイネは言い聞かせるように、何度も自分は人形だと繰り返す。

それはフレンの気持ちを否定しているようで、彼は苦しかった。



(……人形であるハイネに恋をしている僕がおかしいのか?)



「フレン?」

「ねえ、ハイネ」

「何?」


彼女を抱き寄せる。

言葉で伝わらないのなら、と行動に移したのだが、やはりハイネには伝わらない。


「どう、した、の?」

「……」

「体、疲れて、いる?」


次々に彼女は疑問を口にした。

少しだけ力を込める。


「ハイネ。僕は、君が好きなんだ」


しばらく沈黙を作ったハイネは、いつもの調子で続けた。


「フレン、私、の、魔導器、やっぱり、変。壊れる、みたい」

「ハイネ」

「これ、は、許容範囲、なの、かな?」


自分の体の異常を訴え続けるハイネ。

それが愛の告白であるように聞こえた。



システム・エラー
(恋を知った自動人形)


2010/03/12
加筆修正 2013/09/18



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