好きじゃない人にはあげたりしないわ




何故世の中はこんなにも『バレンタイン』で盛り上がっているのだろう。

自分もそれなりに楽しむイベントだけれど、周りが盛り上がりすぎると自分は冷めてしまうような気がしていた。

彼女はふと思う。

男子校でもバレンタインで盛り上がったりするのだろうか。


「友チョコ、とか? いやいや、そんな盛り上がり方はない」


自分の中で行われた出来事に頭を勢いよく振ることで排除した。

一体自分は何を考えているのだと言いたい。

そんな現実逃避をしなくてもいいだろう。

一月以上前から、今日の約束をしていた。

一週間前からそわそわが止まらない。

緊張を伴うこの時間が、多分とても好きなのだ。

あの人を想っているこの時間が。

待ち合わせ場所には彼女が先に着いた。

それから数分もしないうちに彼も現れたけれど。


「宗介、プレゼント・フォー・ユー」


わざとらしい片仮名発言の後でそれを差し出す。

ピンクのストライプ柄包装紙にチョコレート色のリボン。

四角い箱の中身は色々な味のチョコレートが入っている。

自分が食べたいと思う気持ちをぐっと抑え、彼の前に出したのだ。

早く受け取って貰いたい。


「……?」

「何よ、その反応!」


キョトンと初めて見るもののように凝視しなくていいと思う。

そして、早く受け取って貰いたい(二回目)。


「要らないのなら、早くそう言ってもらいたいんだけど?」


感情の読めないままの彼の顔を見れずにそっぽ向いた。

要らないなら、要らないとはっきり言ってもらいたい。

きっと、絶対、間違いなく、深く傷つくけれど、きっぱり諦められる。

これから先を真っ直ぐ見据え、歩いて行ける。

その為に線を引いて欲しい。

自分で下ろせない幕を彼に下ろしてもらいたい。


「俺のことが好きなのか?」

「どうでもいいような人のために約束して、こんな丁寧なチョコレートをあげると思う?」

「思わないが……」


宗介は頭に手をやり、困ったように視線をチョコレートに落とした。


「わざわざ呼び出して、ごめん。日を改めるから、今日はこれで」


逃げ出すのはこの言葉で精一杯だった。


「待て」


掴まれた手首がやけに熱い。

喉が詰まって何も言えない。


「せっかく待ち合わせしたんだ。お茶を飲むくらいの時間はあるだろ?」

「……うん」

「じゃあ、付き合え」


彼女の手首を掴んでいた手はいつの間にか、彼女の手を優しく握っていた。



2016/04/14



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