チョコレートが好きなひとにあげる




菫色のツインテールが揺れている。

彼女の軌跡を辿り愛らしく揺れる。

見ていると微笑ましい。

いつまでもこうして眺めているのはさすがに怪しい。

不審人物だなんて不名誉な称号は要らない。


「ソフィ」


彼女の名前を優しく呼べば、小さな体が飛び上がった。

ゆっくり振り返ったその瞳に彼の姿を映せば、ふわりとそれはクロソフィの花のように笑った。


「びっくりした」

「驚かせてごめん。ソフィは何をしていたんだ?」

「何……考え事?」

「考え事? 何か悩みがあるのか?」


聞いていいのかわからなかったが、思わずそう問いかけていた。

それに対し、ソフィは斜め上に視線を向けた。

悩んでいるという形を見せたソフィに彼女の悩みを聞こうと決めた。


「俺で良かったら、相談にのるけど?」

「じゃあ、聞く。貴方はチョコレート好き?」

「まあ、好きだけど?」

「そう」


沈黙が訪れた。

今の話の流れで、ソフィの考え事が理解できない――わけでもない。

けれど、調子に乗るには決定打が足りない気がする。


「……ソフィは好きなヤツいるの?」

「わたしは……みんな、好き。一番はないよ」


その言葉に嘘はないだろう。

予想通りの答えにがっかりしている自分に気づいた。

彼女ならきっとこう言うとわかりきっていた。

その答えを期待していた部分もある。

それなのに、落ち込んでしまった。


「……どうしたの?」

「いや、何でもない」

「何でもなくない。だって、落ち込んでる」

「……」


どう答えようか悩んだ。

嘘はつきたくないし、彼女を困らせたくもない。

ベストな回答を教えてもらいたいと天を仰ぐ。

彼に倣ってソフィも空を見上げた。


「今日、天気いいね」

「ああ」

「バレンタインって日だって知ってる?」

「当然」

「そっか」


ソフィは嬉しそうに笑った。

小さな柔らかな笑い声が耳をくすぐり、心まで届く。


「だから、貴方にあげる」

「え?」

「チョコレート、好きなんだよね?」

「あ、ああ、まあ……」


歯切れの悪さを彼女は気にしなかったようだ。

ラッピング済みのそれを彼に渡す。

バレンタインだから、チョコレートが好きだから、それだけが理由ならほんの少し寂しい。


「わたし、カニタマ、好き」

「知ってる。特別好きなのは、シェリアが作ったヤツだろ?」

「うん。シェリアのご飯、好き。おいしい……」

「そうだな」

「でも……」

「?」

「好きだよ」

「ん?」


彼女が何を好きだと言ったのかわからない。

詳しく聞こうとしたが、はぐらかされてしまった。



2016/04/06



|
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -