今日だけ魔法を許して




「ばっかみたい」


雑誌に特集されたその記事を眺めリタは吐き捨てた。

毎年毎年何が楽しいのだか理解できない。

一人きりの部屋でぶつぶつ呟いても誰にも迷惑なんてかからない。

好き勝手文句を並べたい。


「ばかみたいだけど、何も知らないと思われるのも癪ね」


変なプライドが刺激される。

だったら、することは一つだ。

気合を入れたところでふと気づく。

自分は料理が『苦手』だったと。

苦手でも努力すればいい。

できないことなんて何もない。

何故なら、彼女は『アスピオの天才少女』なのだから。

――料理は、まったく関係ないけれど。


「あれ、リタ?」


青いシンプルなエプロンを身につけた彼が目の前を横切った。

あまりに似合いすぎて、言葉を失ってしまった。


「リタ?」

「な、何してんの、アンタ」

「何って……」


照れた笑い顔が腹立たしい。

何をしてるかなんて聞かなくても、だいたい想像できていた。

何といってもリタは天才少女だ。

ここはそういう単語を必要としていないが、とりあえず。


「あんた、バレンタインに踊らされてる人種の一人?」

「こういう時じゃないとなかなか踊れないからね。リタも一緒にどう?」


一緒に作って協力してもらった相手に渡す……何か違う気がした。


「リタ? そんなに嫌だった?」

「別に嫌とは言ってないでしょ? いいとも言ってないけど」


彼は少し残念そうに眉尻を下げた。


「で、誰のために作ってるの?」

「リタ」

「え?」

「……と、エステリーゼ様と、ジュディスさんと、パティちゃんと……」

「滅べ!」

「え? 何で怒ってるの? リタのは特別製だから。一番愛情こもってるから」


言葉では何とでも言える。

君が一番大切だとも、愛しているとも。

言葉を欲しいと願った時もあったけど、態度だって欲しい。


「ゆらめく焔(ほむら)、猛追!」

「ちょ、待っ――」

「ファイアボール!」


いつもより数倍威力を増した炎の玉が彼に襲いかかる。

自分にも周囲にも被害が出ないように剣で叩き切る。

反応が遅れちょっと火傷してしまった。

さすがにここは注意をしなければならないと思ったのだろう。

彼は厳しい瞳をリタに向けた。

それが何だか腹が立つ。


「宙(そら)に放浪せし無数の粉塵」

「リタ? リタさん?」

「驟雨(しゅうう)となり」

「一回落ち着いた方がいいかと……」

「大地を礼賛す!」

「リタ、とりあえず落ち着こう。話なら何でも聞くから!」


エアルを集中させていた指先を下ろす。


「リタ?」

「その言葉に嘘はないわね」

「……ああ、勿論」

「一緒にチョコレート、作ってほしい」


可愛らしいお願いにすぐ頷いた。



2016/03/11



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