愛でると汚すは紙一重


※原作重視なカプ要素あり?

※彼は出てきませんが気配はあちらこちらにあります。



ジェノス本部は薄暗くとても静かだった。

永久凍土の地であるから、なんて理由ではないだろう。

そんなことわかっている。

それでも、適当に何か理由をつけたかった。

やや苛立った調子で歩くのは、四天死にも十二死徒にも名前を連ねない少年。

彼の実力は彼らと遜色ないが、彼が名前を欲しがらなかったせいだ。

ボスはそんな彼にやや不機嫌そうな顔をしたが、そこは見逃してもらいたい。

葬儀屋の天選を本気で怒らせるわけにもいかないから。

ディオには目標がある。

それを達成するまでは、死ねない。

たとえ、どんな理不尽な事故に巻き込まれようとも。

胸に秘めたその目標にたどり着くためにジェノスに入ったのだ。

見ず知らずの人間を無表情で殺しているのだ。

今回は詰まらない仕事だったとディオは嘆息した。

いくら殺したところで渇きを癒してくれる存在には出会えない。

一体何人殺害したら、自分は救われるのだろう。

他人を、そして自分自身を殺し続けている限り、救いには手は届かないのだろうか。

わかっていても、『誰か』を殺すことをやめようとは、思わなかった。

ここにいることが、一番の近道に思えたから。

というより、他の道を歩むことができなかったから。

自分の直感を信じるしかない。

今まで生き延びてきた自分の直感を。

ふと感じた人の気配に視線を向ける。

そこにいた人物に若干の疑問が浮かぶ。

それは、彼女が『一人』だったから。


「シュガー……?」

「ああ、ディオ? どうかしたの?」


可愛らしく首を傾けて疑問をぶつけてきた。

どうしたのか問いたいのはディオの方だ。

その疑問を素直にぶつける。


「駆け落ち相手は一緒じゃないのか?」

「……ディオは喧嘩を売りたいの? それなら、買うけど」


化粧師の天選である彼女の実力はきちんと把握している。

任務が一緒になったのは、一度か二度だがそれでも目に焼き付けてしまうくらいには、彼女を意識していた。

可愛らしい顔で綺麗な爪で標的の心臓をくり抜いていた。


「喧嘩を売ったつもりはない。怒らせたのなら、すまない」

「ディオって感情読みにくい顔しているよね?」


ぐいっと顔を近づけてきたシュガーに心臓が恋愛感情に酷似した気持ちを体中に素早く運んでいる。

感情が読みにくいはずがない。

自分の中はこんなにも様々な感情が動き回っているのだから。


「つまんない。もっと笑ったり、怒ったり、泣いたりしてるの見たい」


彼女の手首を掴み、そのまま壁に押し付けた。

驚いた表情が瞳に焼き付く。


「……ディオ、何?」


揺れた瞳が彼を睨みつける。

戦闘時の迫力は半減以下なその瞳。

素直に愛らしいと思った。

と同時に改めて思い知る。

彼女は『他人の物』だと。


「案外詰まらない反応をするんだな、シュガー」

「どういう意味? 泣き叫びでもすれば良かった? それなら残念ね」


彼女はディオの行動の意味を単なる嫌がらせだと受け取っているだろう。

それはそれでいい。が、詰まらない。

彼女の首筋に歯形をつけてやった。

『彼』に対する宣戦布告になったなあと自嘲すると共に、飛んできた彼女の爪を避ける。


「死にたいなら、お手伝いするけど?」


真っ直ぐに向けられた視線。

今は自分にだけ向けられている視線。

どす黒い感情が次々と溢れ出し、それを抑える事の方が大変だと思った。



愛でると汚すは紙一重



title:残香



(2016/05/28)


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