声が届く範囲は極彩色


テレビのバラエティ番組には、炎のように赤い髪の青年が映し出されていた。

太陽のようにあたたかい笑顔で、人に愛される笑顔で、はきはきと受け答えしている。

真面目に、時にはふざける、目を引く彼をじっと眺めていた杏樹は一度深いため息をついた。

やけに憂鬱そうにしている自分に気づいて嘲笑が浮かぶ。

これは何だろう。

対抗心?

ヤキモチ?

それとも……。

心に空いた小さな穴が苦しいと悲鳴を上げる。

絆創膏をくれるのは、彼しかいない。

会いたい。

テレビの向こう側にいる彼へSOSを発信してみた。


「会いに来い、馬鹿」


可愛げのない言葉が飛び出した時、玄関のチャイムが鳴った。

テレビの音以外は静寂な中に響いた音に、ドキリと心臓が跳ねた。

ドキドキドキとそのまま加速する。

テレビの電源を切る。

スマホを握り、玄関に近づく。

もう一度鳴るチャイム。


「……はい」

「こんばんは、杏樹!」


明るい声が飛び込んできた。

帽子とサングラス。

そんなものでは隠しきれない赤い髪。

会いに来いと願った彼がそこに立っていた。


「……今日来るとか言ってなかったよね?」

「あ、いきなり来て迷惑だったかな。ごめん」


落ち込んだ犬ようだと愛おしさに頬が震える。

不審人物だったらどうしようと身構えていた自分が滑稽で笑えてくる。

と同時に会いに来てほしかった彼がそこに立っている現実がとてつもなく嬉しかった。


「いらっしゃい、音也。お仕事、お疲れさま」

「ありがとう、杏樹。こんな時間にごめんね。どうしても会いたくなって」


真っ暗な画面の携帯を見せられた。

どうやら充電切れらしい。

連絡できなくても仕方ない。

突然来られて困る理由もない。

彼を部屋に招き入れた。

唯一気にしなければならないのは、マスコミ対策だろうか。

ソファにバタンと倒れこむ音也はよほど疲れているらしい。

自分に魔法が使えたら、彼を癒してあげるのに。

無意味な仮定に自嘲しつつ、お茶の用意をした。


「音也、滅べ」

「ちょっと、いきなり何それ。君に何かした?」

「してなかったら、こんなこと言わない」

「確かに……じゃなくて!」


オロオロと笑えるくらい狼狽えている。

そんな彼の姿を笑ったりしないけれど。

自分の言葉をこんな風に真正面から受け取ってくれるのは、彼だけだ。

どんな言葉も笑ったりしない。

真剣に聞いてくれる。

そんなところが好きなんだ。

他にももちろん好きなところはある。

一つ一つ説明することだってできる。

けれど、彼の一番の魅力は自分の中にだけしまっておきたい。

彼の『特別』でいたいから。

それは我が儘だろうか。

無理な願いだろうか。

叶えたいと思っても叶えられないことなのだろうか。


「歌ってよ、私のために」


ギターを軽く鳴らし、音也はアカペラで歌い始めた。

それはまだ聞いたことのない曲だった。

耳に心地よい優しいメロディーが、柔らかい歌詞がすっと体に入り込んできた。

気づかぬうちに涙がこぼれていた。

ぽろぽろと止まることを忘れてしまったかのように、一定のリズムで雫が零れる。


「大好きだよ、杏樹」

「……思い切り伝わった気がする。ありがとう。酷いこと言ってごめんね」

「いつもの君らしくて全然気にならないよ」

「……それって、私がいつも酷いこと言ってるってこと?」

「そ、そういう意味じゃなくて!」

「冗談。ありがとう、音也」


こんなに愛されているのだから、不安になんてならなくていい。

それでも消せない不安なら、彼に直接伝えたらいい。

きっと真剣に耳を傾け、解決してくれるだろう。


「杏樹。いつでも我が儘言ってくれていいんだよ?」

「え?」

「すべてを叶えてあげられないと思うけど、努力するから。だから、俺には遠慮しないで甘えていて?」

「……馬鹿」


可愛く返事のできない私をどうか許してください。



声が届く範囲は極彩色



title:OTOGIUNION



(2016/02/29)


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