ひとりにはなれないんです。


昨日も今日も魔物(デモンズ)との戦いは続く。

さすがに毎日になってくるとツラいものがある。

きつい。

自分で選んだ道とはいえ逃げ出したくなる。

投げ出したくなる。


「私はただの調査員なのっ!」

「……アンジェ? いきなり何を叫んでるんだ?」

「カイト……」


はははと力なく笑ってごまかしてみる。

それは通じなかった。

カイトの顔が厳しいものに変わった。


「アンジェ」

「……はい」


そこに座りなさいと言われている気がした。


「違うよ? ちょっと戦いが多いなって思っただけだから。ほら、それだけ魔物の脅威に怯えている人もいるってことで、それから……」


言葉が上手くまとまらない。

ただ言い訳のように支離滅裂な言葉を紡ぐ。

カイトが口をはさむ余裕のないくらい次から次へと。


「それで? アンジェが言いたいのはどんな話だ?」


一通り聞き終わったカイトは優しすぎる笑顔で柔らかく問いかける。

じわりと涙腺が緩んだのは内緒だ。

知られたくない。


「カイト、気にしすぎ。私は何も考えていないよ?」

「そうかな。それだったら、そんなに苦しい顔してないと思うよ?」

「……苦しい顔?」

「うん」


今朝もさっきも鏡を見た。

いつもと変わらないつまらない顔だった。

疲れている様子もしんどそうな顔もしていなかった。


「色んなもの抱え込んだような顔、って言ったらわかるかな?」


何も抱え込んでなんかいない。

幽霊船に乗っている時点でただの調査員とは言いにくいけれど、アンジェはジェフティの助手じゃないし(それはライカの役目だ)、それぞれの組織に属しているわけでもないし、かと言ってフリーでもない。

アンジェの立ち位置はややこしい。

自分でもわからなくなってしまうくらいに。


「カイト。じゃあ、話を聞いて」

「うん。話してみて。俺が力になれるかはわからないけれど、きっとみんなの力が集まったら、アンジェの不安や悩みなんて即解決すると思うよ?」

「……みんなはいい。今はカイトが話を聞いてくれたら、それでいい」

「そう言うなら、喜んで。俺の胸にだけ止めておくよ」


一つ下なのに、時々大人っぽい顔をする。

それが少し悔しくてぽすんと弱っちいパンチ一つお見舞いしてやった。


「アンジェ?」

「でね……」


アンジェが話をしようとしたまさにそのタイミングだった。

魔物が出たとの連絡が入る。

当然ヴァリアントは出動決定。


「行こうか、カイト」

「アンジェいいのか?」

「戦うことで守れるものがたくさんある。それ以上望むことはないよ」


着いたのは市街地から少し離れた林の中だった。

魔物独特の笑い声が耳に障る。

アンジェは弓を構える。

そのまま魔物に向けて放った。

当然ただの弓ではなくマトリクスギアだ。

その力は放った矢に込められる。

一つには焔、一つには氷結が纏いそのまま魔物の体を貫く。

一撃必殺とはいかないが、それなりのダメージを与えることはできる。


「アンジェ!」

「了解!」


準備が整ったと叫ぶカイトの声。

自分の身を退かせる。

カイトの邪魔にならないように。

そのタイミングで心獣解放技が炸裂した。


「唸れ、契約の刃。赤き血の化身よ、すべてを喰らい尽くせ!」


カイトのマトリクスギアから放たれたそれは、目の前の魔物を飲み込んでいく。

あまりに綺麗な技だと思う。

自分にもこれくらいの力があったらと思うが、それはそれでますます目的から離れてしまう気がする。

優秀なヴァリアントたちのおかげで、本日の戦闘はすぐに片付いた。


「カイト」

「ん? どうした? 疲れたのか?」


部屋まで付き合うよ、そう言い出しそうな彼を止める。


「疲れたのは疲れたけど、それはみんな同じでしょ? 私が言いたいのはそうじゃなくて……」

「ん?」

「ありがと」

「……?」

「傍にいてくれて、ありがと」

「どういたしまして?」


カイトが側にいてくれるから、同じように戦える。

戦うことへの恐怖も和らぐ。

彼は知らないだろうけど。

その存在にどれだけ救われているのだろう。


「これからもよろしく」


手を差し出せば、すぐに重ねてくれた。



ひとりにはなれないんです。


title:OTOGIUNION



(2015/09/26)


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