負けられない時間


*スレイに片思い。
*キャラの喋り方不自然。特に、ジイジ。
*視点がころころ変わる。

↑以上が大丈夫な方のみどうぞ。



「ジイジ!」


大きな音(それは破壊音とも酷似していた)と共に現れた少女に彼は大きく嘆息した。

彼女がこれから口にするであろう言葉はわかっている。

彼もその現実に頭を痛めている最中なのだから。


「何度も言っておるだろう。静かに――……」

「スレイが人間の女の子を自宅に連れ込んだって聞いたんだけど!!」

「……」


間違いではないのだが、彼女が口にすると違う意味を含んで聞こえる。

二度目の溜め息は何とか飲み込んだ。


「……ああ。詳しい話はミクリオから聞いておる」

「人間だよ、人間。初めて見た……!」


飛び込んできた時とは打って変わって子供のように瞳を輝かせている。

好奇心が前面に広がっている。


「……って、私はまだ見てないんだった。じゃなくて、スレイが人間の女の子を自宅に連れ込んだってホント!? 何かのネタとかじゃなくて、ホントにホント!?」


相変わらずよく動く口だと感心してしまう。

放っておけば、半日でも一日でも話し続けるのではないだろうか。

それは大変迷惑なものでしかない。


「そうじゃ」

「う、そ……」


アンジェはその場へ崩れ落ちる。

まさに絶望を体現している。


「アンジェ」

「私、私……。スレイのことだけは……えと、ジイジのことも、あとは……コホン。とにかく、スレイのことは信じてたのに!」

「好奇心旺盛で後先考えない。似ておるの、奴とアンジェは」

「似てる!? 私とスレイが!?」


今度は単純に喜び始めた。

パチンと両手を合わせ、視線はななめ先。

何を考えているのか容易に想像できてしまうような表情。

うっとりと瞳を細める彼女は見たまんま、恋する乙女だった。

恋に恋しているだけかもしれないが。


「ジイジ、ちょっと行ってくるね!」


それに対する反応を返す時間はなかった。

たった一人の『人間』がこの地にどのような嵐を巻き起こすのか、それは避けたいものに違いないのだが、若い彼女らには必要なものなのかもしれないと思うのだった。



***


スキップに酷似したアンジェの足取りは軽い。

手を掴んでいないと飛んで行ってしまいそうなくらい浮かれている彼女の前に、幼馴染の一人が姿を現した。


「げ、ミクリオ」

「その反応は何なのさ。僕は君に何かした?」

「……色々と」


口の中でもごもごと呟いた言葉は、恐らくミクリオに届いていないだろう。

はっきり言えないのは彼を気遣ってか、それとも自分の身を案じてか、アンジェにははっきりわからなかった。


「スレイのことなんてさっさと諦めなよ」

「何よ、ミクリオには関係ないでしょ!」

「そうだね。僕にはまったく関係ない。アンジェがフラれても」


何を言い出すんだその口は。

アンジェの怒りにきちんと触れた言葉を吐き出す彼を黙らせるべく、頬を引っ張った。


「ひはひんはへほ?」

「痛くしてるの。ミクリオの馬鹿。バカ。ばーか」

「知ってる? バカって言う方がバカなんだよ。つまり、アンジェがバカ」

「……バカって連呼しないで」

「お望みなら何度だって繰り返してあげるよ」


その次の言葉は頬を膨らませることで終わらせた。

尖った唇に色気なんて微塵もない。


「アンジェ」

「何よ。ミクリオと話をしてる時間なんて爪先くらいもないんだけど」

「ほう。で、どこへ行くつもり?」

「どこってもちろん、スレイの家……」


スレイの家に今誰がいるのか、そこで漸く思い出した。


「……」


怒りと恐怖が綺麗に入り混じった感情がアンジェの胸の中で暴れまわる。

唇をギュッとかみしめ、行き先を変えた。


「アンジェ?」

「帰る。ミクリオの相手してて疲れた」


逃げたと思われたくないから、そんなわかりやすい言い訳を残して足早にその場を立ち去った。

入れ替わりのようにやってきたのは、ジイジ。


「いい加減素直になれんのか?」

「……なれてたら、こんなに悩んでいません」


子どものように無邪気で天使のように愛らしくて、時に遺跡よりも心を惹きつける。

そんな少女が幼馴染で家族のような少女がいつのまにか『特別』になっていた。

その現実が怖くて、とても愛おしかった。

近くに置いておきたくて、けれど壊してしまいそうで怖かった。


「好き、なんですかね」

「間違いなくな」

「……」


認めたくなかったわけではない。

誰かに断定してほしかった。

……わけでもないのか。

自分のことなのに自分でもよくわからない。

アンジェをからかっている時が一番安心できているのかもしれない。



***


「スレイ」

「ん?」


人間の少女――アリーシャと言うらしいがアンジェには関係ない――が、この地を去ったあと、彼女は彼を呼び止める。


「……好き、になった、とか?」

「何が? ああ、アリーシャのこと? 可愛かったよな。それに……」


ポスンと柔らかいパンチを一つ、彼の腹部にお見舞いしてやった。


「アンジェ?」

「スレイ、の、バカ」

「いきなりなんだよ。俺、何かしたか?」

「色々したよ。今ここで私が泣くくらいのことはね」


じわりと膜を張る水分を何とか振り払う。

ここで泣いて何になる。

スレイを困らせるだけだ。


「アンジェ?」

「スレイ、私、まだ負ける気ないからね」

「負けるって何に」

「スレイの鈍感さとか?」


そんな答えを導き出せば、スレイは大きく首を傾げた。

可愛く見えなくもないが、憎らしい。


「スレイ、未来は簡単に決めさせないからね!」



負けられない時間


(2015/01/22)



スレイ夢と言いながら、スレイ←夢主←ミクリオです
(これで長編書いても面白いかな。面白いついでにスレイ→アリーシャも含めてみるとか(笑))




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